㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
一週間の食生活実験は、味付けに関しては少々どころかユニの努力で結構おいしい健康食体験と化し、ジェシンはなんだか肌艶が良くなったと編集部の同僚にからかわれた。
「鶏肉と魚は食いましたけど、う~ん・・・野菜中心の生活を送る人たちはこれが目的なのかもしれないっすね。」
何しろ繊維質たっぷりの食事なので、お通じがいいのだ。腸の調子がいいと肌にいいとは本当だ、とジェシンはつるりと頬を撫でた。
もう一つ肌艶がいい理由は誰にも言えない。毎晩恋人を腕に抱いて眠りそのうち数回は熱い・・・夜があったから、なんて。
ユニは執筆が夜中でないとエンジンがかからない、というタイプではない。元からあるストーリーの骨子に肉付けし、物語を綴るのは彼女にとっては毎日のルーティーンの一つだ。だが、それはやはりユニの創作活動なので、ジェシンがいるところで小説自体を書いていることは今までないのだ。思いついたことや、湧き出た言葉、興味を引いた事柄などはすぐにメモを取るし、暫くノートに書きなぐっていることはあるが、それはあくまで覚書であり、小説を綴っているわけではない。だから日中にも書いているだろうが、夜にだって今良い文がかける、書きたい、と思うこともあるだろう。今週はジェシンがずっとユニのマンションで暮らしていた。だから夜、ユニが少し書きたい、と言った時は、ジェシンは大人しく先にベッドに入っていた。邪魔をしないように。
そんな風に仕事の関係が二人の間で暗黙の約束のようにあったとしても、二人は恋人としてありがたくこの時間を享受した。ジェシンはそう思えてならない。それは体を許し合ったからではない。二人で『生活』を共にすることでお互いをもっと知り、相手への遠慮と願望の折り合いをつけ、そしてそれまで少し残っていた先輩後輩としての距離をなくし、自然にお互いに手を伸ばすことが出来るようになった時間だからだ。ユニはソファに座る時自然にジェシンの隣に来るようになったし、ジェシンは玄関のドアを開けたときに迎えに出てくれたユニを引き寄せるのに躊躇が無くなった。ふわりと軽く抱き合う、そんな時間が暖かく自分たちを包む気がした。気持ちがいい。それは性的なにおいのない、優しい愛情が支配する時間だった。
そんな二人の関係は、ユニに自信を与えたらしい。ユニは成均館大学の図書館に足を運びたい、そうジェシンに言った。
きっかけはソンジュンとジェシンとの会話だった。ユニが『ユニイ』という作家で、その担当者がジェシンであることを知ったソンジュンは、親友であるユニの弟ユンシクにそれを告げることなく、ユニがユンシクを含む家族と会う意志を持つまで秘密を守ることを約束してくれた。そこにはユニへの罪悪感がなかったとは言えない。ユニが家族と決裂するきっかけの騒動の渦中の人物だったからだ、ソンジュンは。だがそれ以上に、ソンジュンはユニのことを女声として気に入っているだろうとはジェシンも察していた。だからこそ他人はユニがソンジュンの本命だろうと思ったはずだ。ソンジュンは一言もそんなことは言わないが、流石にジェシンでも分かる。
李氏朝鮮時代の庶民の生活について、なかなか雰囲気を掴むのに苦労しているみたいなんだよ、とジェシンはユニの近況を教えたのは、食生活実験に入る前だった。両班の資料は残っていますが庶民はなかなかね、とソンジュンも言った。何か探しておきますよ、とも言ってくれたが、ソンジュンだって自分の研究に忙しいだろうと期待はしていなかった。そのソンジュンが連絡をよこしたのだ。
大学図書館の所蔵する古書を調べ直してみたんです。どちらかと言えば漢詩や儒学の写本などが多くて、文学部の研究材料のように思ってたんですけど、ダメもとで調べてみたら、地方の役人の日誌とかが出てきましたよ。多少解説もできます。どうです?
ユニはその話を聞き、ソンジュンが自分のことを知っているとジェシンから聞いてしばらく考え、そしてジェシンの付き添いの元、現物を見たいと申し出たのだ。