㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
揃ったのは各種雑穀、ドライフルーツ、乾物・・・昆布やワカメの海藻含め魚の干物、野菜、特に根のものを干したもの。卵、鶏肉はいる時にすぐに購入できるとして、葉菜は普段使っているものを使わないとなると、使えそうなのは人参と畑の青物の代表として白菜ぐらいだろう。キャベツもピーマンもその当時には絶対にない。芋だってポピュラーなジャガイモは当時はなく、おそらく里いもの類のものがあっただろうと予想されるぐらいだ。貧しい小作人の家なら、畑で出来るものは金に替わるもの。租税にとられるもの。作っても自分たちの口には入らない。ジェシンが庭からとってきたフキの葉とヨモギが青々と光って見える。
流石にユニは、野草の料理にはてこずった。本やサイトを見ながら茹でて、ごま油で炒めてみたりしても、どこかえぐみが残って、下ごしらえが甘いのか料理法が悪いのかと苦心した。
逆に最初から上手くいったのが雑穀の扱いだった。
白米と混ぜて使ったのだが、取り寄せたものには大概外パッケージに使用する水の量などが注意書きとして書かれてあり、ジェシンが泊まり込む前日に、試しに普通の硬さで炊いてみたのだ。普通に白米だけ炊く時より多めの水量を守れば、きちんと調理できる。出来上がった10穀米をおにぎりにして、ユニはジェシンにも食べさせたが、香ばしくておいしいものだな、と素直に思えるほどだった。ただ、白米の割合はもっと低い。もしかしたら100パーセント雑穀だったかもしれない。そこのところは無理をしないようにします、とユニが言ってくれたので、正直ジェシンはほっとした。
ダイエットに縁はない。ただ、スポーツ記者をしていたおかげで、選手たちの体づくりへのストイックさは知っている。体脂肪率を一桁台に保つために、糖質を制限し、たんぱく質とビタミンに特化した食事を基本とする選手もいたし、逆に水泳選手などは種目によっては筋肉で重くなってはダメだという者もいた。鶏肉なら胸、ささみ。味付けは塩コショウぐらい。ブロッコリーにゆで卵、プロテイン食品。そんな食生活の中に、確かに雑穀米で糖質をコントロールしている人もいた、とジェシンが言うと、料理本を示したユニが笑う。
「これを書いた方も、スポーツ栄養学の資格を持つ方ですよ。」
体が資本のスポーツ選手は、体重も筋肉量も脂肪もコントロールしながらも、やはり体を作るものは口からとる食事からだ。それがおいしければさらに精進できるだろう。みんな色々考えてるな、とジェシンもそのおいしさに納得した。
「じゃ、俺は体づくりだと思うことにする。」
「私もスポーツマンの気分を味わいたいと思います。」
朝食は10穀米のおかゆにワカメをごま油で炒めたものが添え物。乾物の小魚を思い切り甘辛くにつけたものを混ぜた厚焼き玉子。おかゆを二杯食べて出勤したジェシンだが、夜の7時にマンションにつく頃には、空腹を通り越してしまっていた。
それはユニも同じだったらしく、辛かったでしょ、と玄関にかけてきた姿を引き寄せて抱き着いたら、料理していたらしい甘い穀類の匂いがしてくらくらした。そして同時にお腹がぐうぐう。
「粥はすぐに腹が減るな・・・。まだ一日目なのに・・・。」
すぐに用意できますから、と着替えもそこそこにテーブルにつくと、朝より多めに炊かれた粥、鶏肉を茹でて割いたものに、ドライフルーツの中にあったくるみを砕いて散らし、ゴマダレをかけたおかず、そして緑色の葉っぱの炒め物。
「人参の葉なの・・・フキはまた失敗して・・・ヨモギはお茶にしてみました。案外飲めたけど、料理には使えなかったの・・・。」
人参の葉ならいいかなって、と言うユニに寄れば、鶏肉を買いに行ったら、野菜売り場に葉つきで売っていたらしい。
「美味いな。」
「そうなんです。作ってる最中の香りが違うの。」
少しくせはあるが、甘みのある香りはどちらかと言えば東南アジアに多い香草に近いだろう。おそらく鶏肉を茹でたときに使った昆布を割いたものと一緒に炒められていて、コチュジャンの香りも合わさって美味い。
粥を三杯、鶏肉も人参の葉の炒め物も二人で山分けして食い、長い夜を迎えた。