㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
実家の母親によると、今夏の庭の手入れの打ち合わせをする日があると言うので、その日に合わせてジェシンは帰宅した。久しぶりの実家で、手伝いのアジュマと母の合作であるごちそうを食べ、ゆっくり眠って次の朝、ジェシンは母親と一緒に庭に出ていた。
ソウルでは珍しく広い方だろう庭は、高さのある木は二本ほどだが、低木が丁寧に植えられていて、芝のところを含めて夏は葉が伸びるので、定期的に手入れをしてもらう人を頼んでいる。ジェシンが知る限り同じ男性が一人で枝を整え、草むしりをしていた記憶があり、その朝も少し年を取ったその男性がやってきた。
話を聞いた男性は笑い、若いお人は知らないんだねえ、と言いながら、ジェシンを塀際の方へといざなった。母親も興味深そうについてくる。
「どんなに手入れさせてもらってもねえ、雑草と呼ばれる草花は、風や鳥の糞や昆虫にくっつくことで種をどこにでも飛ばすし、根っこも全部は撮り切れないからそこからまた芽を出すんですよ。今年もそれとの戦いですね。」
これがフキ、これがヨモギ、と塀の真下の湿った土から鮮やかな緑色を見せる草をジェシンに示した。
「あっという間に育ち、背も高くなります。抜いてもまた生える・・・いたちごっこですねえ。」
それから今度は塀と低木の間の土地の上にひょいとしゃがみ込んだ。
「これがオオバコ。どこにでも生えやがる・・・踏まれようが何しようが地面に張り付くようにしてますよ。」
つくしはもう終わっちまいましたしこの庭では見たことないですしねえ、と立ち上がりながら言った男性は、ジェシンが見せたリストを確認し、山に行かねえとない奴もありますね、と笑った。
「セリは川べりに生えるもんですよ。それに売ってる。ヒユとかはわからないね、この辺りにはない草かもねえ・・・。ああ、ナズナはね、よく見るけれど、この家の庭ではお目にかかりませんねえ。どっちかっつったら、道の端っこあたりでよく見るね。」
あんなの美味いかね、と首をかしげる男性に、それしか食うものがない時代の食い物を探しているんだ、とジェシンは自分の職業も含めて告げた。
「詳しく書くわけじゃないんだけれど、何もわからない状態でその食事が貧しいとか旨くないとか書きたくないんだと思うんですよ、うちの先生は。で、そういう飯を食う生活をちょっとだけしてみることになったんです。」
うんうんと納得した男性は、ナズナねえ、と顎をさすった。
「探してみますよ。それから儂はこちらの庭の仕事は、入っても半月後ぐらいからなんで、それまではこの辺りは採り放題、ってことで、沢山抜いてって下さい。儂が楽だ。」
もうユニの部屋には雑穀も届き、ジェシンは探してドングリの粉の麺も取り寄せた。川魚は難しかったので、鯵や鰯の小魚を丸ごと甘辛く煮た総菜を取り寄せ、そろそろドライフルーツも届く。
「私は家にいるばっかりだからおかゆでもいいけれど、先輩はお仕事でお外に出るでしょう。しっかり食べなきゃだめだわ。」
「いや。俄然興味が出てきた。君がどんな工夫をして未知の材料の料理をするか、食ってみたい。」
「絶対あっさりしすぎて物足りないわ・・・。わたし、その間は家にお菓子も置かないことに決めたんです。一日二食、限られた量の食事で生活するのよ。」
「その時代の人は、その食事量で農作業や労働をしたんだろ。俺を見て当時の男の様子を想像したらいいじゃねえか。」
ジェシンは、朝、晩二食の食生活実験を一緒にする、と宣言して譲らなかった。だからすなわち、ジェシンはその間、ユニの家に寝泊まりすることになる。そう言ったし、ユニも了承した。準備にも力が入るというものだ。
失礼、と男性に告げ、母親と話をしだしたところから少し離れた庭のど真ん中で、ジェシンはユニに電話をかけた。
「ゆ・・・先生。何種類かはうちの庭で手に入る・・・うん、フキとヨモギとオオバコってやつ。セリは買おうぜ・・・。うん、うん、そうなんだよナズナってのがないんだ、けどよ、庭師のアジョシがここにないだけだから探してやるよって言ってくれたんだ、うん、おいおいってことで・・・始めるか。」
食生活実験という名の一時同居を。