㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニイとしての作家活動は、今のところ執筆だけだ。既刊の小説についての記事や、映像化に関連した細かいものはあるにしても、『ユニイ』は顔出ししない作家なので、まずどこかに出向く仕事をしない。せいぜいコメントや礼文などを依頼されるだけで、ジェシンはその調整が主な仕事のようなものだ。マネジャーみたいなもんだな、とユニの負担にならないように調整していたが、そこに今、絵本作家ハヌルとしての仕事が入ってくるようになった。
絵本は順調に、というか少子化のこの時代においては珍しく部数の出た絵本となった。ユニは三つほどの話を用意していたので、順次刊行することになり、仕事の早いアン絵師のおかげで、初夏には第二巻が出ることになったし、二か月後には三冊目もめどがついた。絵本、児童書界においてはスターの誕生だ。アン絵師は積極的に自分の近影を出す人ではないし、ユニにおいては『ハヌル』も『ユニイ』同様プロフィールは出さないと決めていたから、絵本アワードみたいな賞レースの主催者から打診が来るとなると大変に困ったことになった。
出版社としては賞は受けてもらいたい。だが、こればかりはユニの個人的な情報を開示することになってしまうから、看板作家『ユニイ』のプロフィールも危うくなる可能性がある。人は一つ分かると色々と探りたくなるものだ。何か一つでも共通点を見つければ、そこから真実だけが暴かれるならまだましで、妄想や作り事まで拡散されてしまっては、大学の時の二の舞になってしまう。
そこで、アン絵師が手を挙げてくれた。俺が見つけた書き手ってことにしたらいいじゃないか、と。
「知り合いで自分の絵にかわいらしい文を添えてくれる人を見つけたら、絵本も協力したら書けるかもしれないってやってみた、ってことにすればいい。評判が良くてうれしいけれど、基本一般人だから表に出たくない、ってことにしよう、うん。」
アン絵師は自分の近影を横長の顔のパンダ、ユニの近影を横長の顔のウサギにして、ユーモアあふれるものにしてくれていた。それで勘弁してもらってくれ、世の中には人前に出るのが苦手な人間がいるんですよ、って言ってくれよ、とその後はジェシン達に丸投げしてきたが、編集長や児童書の編集部と話し合って、アン絵師の提案に乗ることにした。話がバラバラではあらが出るので、人前に出るのが苦手なたち、今回の絵本のヒットは本人にとっては計算外で、今までの生活を乱したくない、乱されれば次作がかけなくなるかもしれない、ぜひ静観をお願いいたします。この三本柱で押すことにし、どうしてもの場合は、アン絵師が顔だけ出してくれることになった。これは本人の申し出だ。「口を滑らしたらいけませんからなあ!」という事だそうだ。
だが、ジェシンとしては、一つユニが家族に会うための布石が出来た気がした。絵本作家『ハヌル』としてなら、『ユニイ』としてより会わせやすい。『ユニイ』はそれぐらい社会的には作家としての地位が確立しすぎていて、当然収入も多いと予測されているし、実際にその印税や関連の売り上げなどで、高所得者だ。不動産も自分のマンションを一室、ローンもなしで買い上げてあり、後は預貯金だろう。正直。
サラリーマンのジェシンなど、足元にも及ばない高所得者なのだ。
悲しいことに、ユニの懸念はここなのだ。ユニの両親は、ソンジュンとの噂を、『良い家柄で富裕な層の人』との縁がつながる幸運だととった。それはユニの将来のためであったかもしれないが、ユニからすれば相手の家がお金持ちで名のある家だから喜んだ、という風にとったのだ。そこにユニの想いなど何も考慮されていなかった。これを機に噂を本当に、という両親の魂胆が心底嫌だったのだ。そして自分の親がそういうさもしさを持つ人たちだと認識してしまったことに、自己嫌悪もあったのだろう。ユニは実家から離れなければ、自己を保つことができなかったのだ。だから離れて正解だったのだが、今度は近づき方がわからない。それはユニが完全に経済的にも独立しているせいでもあるが、ユニ自身が、彼女の両親が飛びつくようにして目を輝かせた、『名誉と富』を持つ方の立場になりつつあることで、また親の嫌な面を見てしまうのではないかという恐怖を持っているところにある。
だから、『ハヌル』というようやくヒット作に恵まれた絵本作家、そして絵本は購買層が限られているからこそ、作家という立派な職業ではあるがそれなりの収入だろうと誰もが予想できるもう一つの顔を持ったことにより、その点をクリアできるかもしれない、という希望が見えてきたのだ。