極秘でおねがいします その57 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「あ~・・・まずった?」

 

 ヨンハを思い切りにらみつけるジェシンに、少し勢いをなくした声でヨンハが呼びかけてきた。

 

 ジェシンは答えることなく視線を飛ばした。早く来い。予約したタクシーを必死に招く。新たな車が駐車したのが見える。タクシーではなかった。

 

 「・・・うるせえ・・・さっさと店に入れ。」

 

 ものすごく低い声が出たと自覚した。腹がぐるぐると熱い。自分がかなり怒っているのが分かる。余計なことをしたヨンハに。そしてそのヨンハにこの取材旅行のことをしゃべってしまった自分の口の軽さに。ユニが腕にますますしがみつく。顔はすっぽりと背中側だ。

 

 「・・・分かってる・・・分かってるってごめんって!」

 

 「・・・そっち側を回れ・・・半径5メートル離れろ・・・。」

 

 両手を上げたヨンハが分かったから!と言いながら少し後退り、ジェシンの右手側に向かった。ユニがジェシンの左腕にしがみついているから。

 

 「・・・こっち見んな・・・絶対見るな!」

 

 ジェシンの低いけれどものすごい剣幕の声音に、ユンシクもソンジュンも何も言わなかった。言えなかったのだろう。親しいけれど決して先輩後輩という態度は崩さない二人が、ジェシンに挨拶の言葉すら掛けないなんて今までなかった話だ。

 

 一台車が入ってきた。駐車スペースに停まることなく店の出入り口を目指して回ってくる。タクシーのマークが蛍光色に光った。やっと来た。あと5分早ければ。だが約束の二時間後より10分も早い到着だ、文句を言うことなど一つもありはしない。今来てくれただけでもましなぐらいだ。

 

 「車が来た。立つぞ。」

 

 少し首を曲げて囁くと、わずかに頷くユニに申し訳なさがこみ上げる。完全にジェシンのミスだった。謝っても謝り切れない。

 

 ヨンハ達四人が完全にジェシンの右方向に行った時点で、ジェシンはユニに腕を放させて逆に左腕に頭から抱え込んだ。ユニは大人しく肩口に額をつけて、顔を完全に伏せてじっとしている。タクシーにあいている右腕を上げると、近づくライトの中立ち上がった。

 

 「顔は上げなくていい・・・そのまま歩こう。」

 

 そう囁いて、ユニのバッグを掴み数歩。すうっと停まったタクシーのドアを開けると、いつもならユニを先に乗せるが、今はユニを自分の体から離すわけにはいかないので、ユニを抱え込んだまま車内に滑り込んだ。

 

 「気分でも悪いんですか?」

 

 不安そうに聞いたドライバーに、

 

 「こんなところで会いたくない人を見かけちまったんだよ。」

 

 と暗に早く出すように言うと、ドライバーははいよ、とすぐにサイドブレーキを外した。

 

 

 滑り出ていくタクシーを、ヨンハは頭を掻きながら見送った。

 

 「これは・・・一世一代の友情の危機だな・・・。」

 

 「なんだかコロ先輩に申し訳ないことをしましたね。お仕事で来られてるんですよね・・・ということはご一緒におられたのは作家さんですか。」

 

 「多分な・・・。いや、コロに遭遇したら面白いかな~ぐらいで来たんだけど、あいつの仕事相手に迷惑かけるつもりはなかったんだよ・・・。」

 

 「人嫌いの方なんでしょうか。完全に・・・俺たちは拒絶されてましたね。」

 

 「だろうな。」

 

 人嫌いの人はこんな大勢の人がいる焼き肉屋には来ませんよ、とトックは言いそうになったが、とりあえず席を頼もうと見せに入りかけてふとユンシクの様子がおかしいことに気が付いた。

 

 「テムルさん・・・どうしました?」

 

 そっと声をかけると、ユンシクははっとしたようにトックを見た。ユンシクはジェシンが連れの女性と乗って去って行ったタクシーの行方をいつまでも見送っていたのだ。

 

 「いえ・・・あの・・・先輩と一緒におられた方が・・・なんとなく・・・。」

 

 いえ、気のせいかな、と頭を振ったユンシクにそれ以上言うこともなく、トックはユンシクを促して店に入った。席はあると言われて店の入り口から顔を外に出すと、ヨンハがソンジュンに珍しく慰められていて笑ってしまった。

 

 だけど、坊ちゃんたちも一泊するんだから、明日もねえ・・・どう言い訳しますかね・・・。

 

 ジェシンにいつも申し訳ないと思っているトックだったが、今日ほど申し訳ないと思ったこともなかった。

 

 

 

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