㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
そしてもう一つ。
「それは映像や・・・例えばそういう活動をしている人に取材するのではダメなのか?」
「この目で見て確認したいです。物見高いと相手には思われるかもしれませんが、出来るだけ失礼のないようにそっと。だから逆に、そういう活動をしている人を通してもらうことがいいかと思うんですけど・・・取り繕われて、都合のいいところばかり見せられるかもしれないので、出来たら先輩、調べていただきたいんです。」
それに。
「先輩は一緒に行ってくださるでしょ?」
「そりゃ。」
「だからあんまり心配はしていないんです。」
小説自体は書けている。だが、どこか上っ面のような気がして、書いている自分がそうならば、読む人にはもっと文章が軽く感じられるかもしれない、とユニは付け加えた。
ソウルから、ユニが主人公の出身地にしている安東(アンドン)は、日帰りが十分できる距離ではある。だが、取材として行くのだから、調べたいことや見たいことを十分にするためには日帰りでは不十分だ。ジェシンはユニが行って最低限行きたい、調べたいことを聞き、ビジネスホテルを三泊予約した。
そしてもう一つ。こちらの方が先にできることになったのは、ジェシンがユニの取材旅行に同行するために会社での他の仕事を融通するのにかかった時間のせいだった。こちらは編集長にも聞き、少々ネットなどでの裏評判などもこっそり調べた上で、いわゆるボランティア団体に取材を依頼することに成功したからだ。
ユニが望んだのは、生活困窮者の実態を取材することだった。
ユニが主人公に設定してるのは、地方の両班の子息だが、家長が早世したことにより、元から貧しかった家がさらに困窮していた、という生い立ちだった。年の離れた姉が幼い頃にいつの間にか家からいなくなり、母親と二人の寒い家で父親の残した唯一の財産ともいえる本を読み漁ることで学問を身に着けた主人公が、ずっといなくなったと思っていた姉からの援助が家にあったことを知り、自分が幼い頃に金のために売られていった姉を取り戻し、家を再興するために科挙に挑戦する、そういう話だった。
本当に貧しい、という事を、幸いなことに私は知らずに来ています、そうユニは言った。それはジェシンだって同じで、ジェシンなぞどちらかと言えば富裕層に当たる家の息子だ。ユニの実家だって、両親が教師として働き続け、小さいながらもこのソウルで家を持ち、贅沢はできなくても暮らしてきた。大学の費用は流石に奨学金を利用したが、それも満額ではない。衣食住の心配なく育ったユニに、家が無くなる、明日食べるものの心配、いや、何日もまともに食べられない、働きたくても働けない、という状況の人たちのことが分かるわけはないのだ。勿論生活困窮者の福祉関係の資料などはごまんとある。時にニュースにもなる。半地下に住む人々の話は映画にもなった。だが、それは文字、または画面の向こうの話だ。
「本当に明かしてもいいのか。」
「はい。それにこういうことで約束を破るような人ならボランティア活動などされませんよね?」
「俺は性善説は信じてねえ。」
「私もですけど・・・こういう活動をしている人が約束を破るような不誠実さを持っていては活動の評判に関わるだろう、と言いたいだけなんです。」
「じゃあ、それは最初にほのめかしておこうか。」
そんな不穏な会話を交わして、二人はボランティア団体の代表と落ち合う約束をしたカフェにいた。話を聞かせてもらい、実際に半地下の住まいや援助を受けている母子家庭や父子家庭の様子を見せてもらうことになっていたのだ。
ふ、と華やかな香りが鼻先に触れた、と思ったら、Tシャツジーパン姿の女性が立っていた。ジェシンはカッターシャツにチノパンだが、ユニは女性とあまり変わらない格好で来ている。それは相手方からの要望だった。できるだけ普段着でおねがいします、という。
「失礼します、依頼を頂いたムン・ジェシンさんですね。代表のカン・チョソンです。」
名刺をすっと差し出したその女性は、大層華やかな容姿をしていた。