㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
結果、双子のウサギのお話は、シリーズ絵本として出版された。
祝いとして最初につくられた『ぜったいぜったいみつけるよ』は、いずれ第0号か特別版として出すにしても何年も先で、それに作者名も変えることになるのだが、それはまた別の話だ。
絵の担当者TOUCHと印税は完全に折半。そういう契約で、出版部門は児童書の編集部だが、担当はジェシンがすることになった。だからこればかりはユニイが別口で作家業を増やしたという事は、どちらの編集部でも公然の秘密にはなったが、煩わしい詮索を避ける以上、仕方がないことだった。
ユニはTOUCHことアン・ドヒャン画家と組んで仕事をする以上会う、と自分で決めた。それは年も押し詰まった12月のクリスマスソングがあちこちから聞こえてくる寒い日に行われた。
「うはあ・・・そりゃあの話がかわいらしいはずだ、書いた人がかわいらしいのう・・・。」
能天気な大声でユニを一目見たドヒャン画家は漏らし、どかどかと近づいてユニの手を両手でつかんだ。
「初めまして!しがない絵描きですが、一緒に仕事ができると聞いて張り切っております。よろしく、ユニイ先生!」
大声で掴んだユニの手をぶんぶんと上下に振りながら挨拶をするドヒャン画家に、ユニはびっくりしながらもにこにこと笑った。
「こちらこそよろしくお願いします。でもこのお仕事では私の名前はユニイじゃないですし、混乱しますから、本名のユニと呼んでください。」
「ユニさんか!本名もかわいらしい響きだのう・・・。」
「ただの近所のおっさんじゃねえか・・・。」
「聞こえてるぞ、ムンさんや!」
ぶぶぶ、と背後で編集長の噴き出す声がする。ジェシンとドヒャン画家のどちらの突っ込みに笑ったのか、それともどちらにもなのかはわからないが、とにかく先生を座らせてあげてください、とその場を収めたのはさすがだった。
ユニには、絵本としての完成度が高くて、前編集者がぜひ世に出してほしい、子供にもっと読ませたいと言っていた、と説明し、その気にさせた。ただ、絵本として売るという会社側から見た商品価値が、ユニイという作家の名ではなく、絵本そのものの魅力であることをぜひ証明したいし、ユニイという名の色眼鏡でその絵本をみられたくないから、ペンネームを変えませんか、という提案もあったと伝えたら、ユニはしばらく考えてから、そうですね、とまた素直に頷いた。
ユニは作家らしく、絵本をシリーズにする話が出てから、主人公のウサギたちの人物像をきちんと整理していた。それはジェシンが促す前にされていたことで、児童書の方の編集長へ話を通すときに、何の時間的ブランクも持たずに済んだのがさすがと言うべきか。
ゴーサインなどすぐに出て、ユニは早速話を作り上げた。今執筆中の小説もあるのに、とは思ったが、息抜きになるの、と楽しそうではあった。もう一つノート作ったんです、と今度は絵本用の覚書ノートをジェシンは見せてもらったので、言葉通りユニは楽しんでいるらしい。すでにそこにはいくつかの話の種が描かれていて、生活バージョン、季節バージョン、などという言葉も踊っていた。
そこまで話が決まってから、ユニとドヒャン画家の共同執筆という形で新たに契約を交わし、そして初対面の今日にいたる。記念すべき第一作目の会議なのだ。
「しかし、どうしてペンネームを『ハヌル(空)』にしたのかね?」
早速ドヒャン画家は砕けた言葉遣いでユニに話しかけている。ユニもこだわりなく、あのね、と親し気に返した。
「オンニに贈ったあの絵本の絵・・・ウサギさんたちはもちろん気に入ったんですけど、ほら、あのお話は終始家の外の話だったでしょ?」
『ぜったい・・・』ははぐれた双子と両親がお互いの残したものをたどって巡り会う、という話だったから、確かに舞台は建物の外だ。
「濃い青から始まってきれいな抜けるようなブルー、それから薄まって行って最後は夕焼け・・・空の色が綺麗で、そしてあの絵本が私の絵本の始まりだもの。先生の空の色からイメージして名前を付けたの。」
その瞬間、ドヒャン画家の目から涙が噴きあがるのを、ジェシンと編集長は目撃することとなった。