極秘でおねがいします その19 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「不規則な仕事だから、記者として本格的に勤務が始まった時に、これは無理だと思ったね。家事は確かに・・・飯や生活のサポートはしてもらえるが、なんていうか・・・帰ったらもう誰にも何も言われることなくベッドにダイブしたいんだよな・・・。今でこそ体力に気力が追い付いてきていたが、最初はそういう生活に心配そうにする母の視線すら面倒になったんだ。」

 

 「スポーツ記事でもですか?」

 

 「一人の選手やチームを追いかけると、トレーニングや試合にも帯同するし、その間に周辺や経歴の調査、勉強もしなきゃならねえ。寝る暇なんかほとんどないし、インタビューが許される時間帯以外は、いかに邪魔せずに取材を続行するかに気を使う。だが、チャンスは見逃したくない。海外への遠征や大会があれば、時差が出るし相手の取材も必要だ。だが、せいぜい一緒にいくのはカメラマンだし、交渉から何から会社の名でアポイントしてるといっても全部一人でしなきゃならない。くそ記事・・・失礼、しょうもない記事はそんな苦労をしていても容赦なくボツだし、それこそ中途半端なら読者からバッシングが来る。記者なんて言いっぱなしのいい商売だって言う奴らがいるが、そうでもないんだぜ。」

 

 「そうなんですか。同じ業界にいるのに全然違いますね。」

 

 「同じじゃねえよ。俺にはユニさんみたいな創造する力がない。記者は事実を分かりやすく伝えてなんぼだ。」

 

 「分かりやすく、というのはとても難しいことです。コロ先輩はわかりやすく読んでもらえる文を毎回作っていたという事ですよ。その臨機応変さが記者としての大事な要素なんですね。」

 

 「そんな偉そうなもんじゃないよ。」

 

 さて、と会話を切り上げて、連絡して食器を下げてもらい、仕事の続きを始めた二人。本を押さえるサポートを続けるジェシンは、ユニの筆跡を感心して眺めた。

 

 非の打ち所がない完璧な字。まるで印字されたかのように大きさが揃い、癖がほとんどない。冊数が進むにつれ疲れてくるはずだが、一字一字丁寧に止め、字間も整っている。悪筆のジェシンは、本当に今の時代何でもPCで文書を作成できてよかったと感謝しているぐらいだから、ユニの字はまるで魔法の様だった。

 

 朱印を押して、少し手を揉んだユニを見て、休憩するか、と声をかけたジェシン。常備されている電気ポットとティーバッグで紅茶でも、と半紙を挟みながら思い、準備しながら字が上手いな、と何気なく声をかけた。

 

 「父が・・・私の父は中学の教師なんですが・・・。」

 

 ユニの声に、ジェシンは振り向いた。

 

 「歴史の研究が趣味で、それで古書なんかも集めてまして、そういうのってほら、墨で書いてあるじゃないですか。」

 

 「印刷じゃなくてな。」

 

 「ええ、写本、っていうんですか。そういう字も好きで、自分でも毛筆をやってまして、私やユンシクも一緒にやらされました・・・っていうか好きだったわ。どこにも連れて行ってくれない忙しい人なんですけど、その時間は父と一緒でしょう?性に合ってもいたんでしょうね。結構長期間字の練習をしていました。」

 

 「そういやシクも字は上手かったな。」

 

 改まった場で書かれたものを見たわけではないが、ちらりとみる機会のあったノートの字やメモの字などは、読みやすいきれいなものだったと思い出したジェシン。

 

 「役に立ってますね・・・。」

 

 「だな。親父さんに感謝だな・・・。」

 

 そうやって少しずついい思い出を、家族の思い出を再構築すればいつか彼女の胸のしこりももっと小さくなるだろう、そうジェシンは思って紅茶を淹れる手を進めていると、ドアがノックされた。

 

 「失礼します~・・・先生!お疲れ様ですねえ!」

 

 現れたのは編集長。にこにこと編集室では見られない笑顔を浮かべていて、一瞬ジェシンは腰が引けた。今のところジェシンはやられてはいないが、なかなかに厳しいことをおっしゃる方なんだよ、と周囲の編集者からは忠告されている。

 

 「あ・・・アジョシ!」

 

 おいおい、編集長にいたっては叔父さん呼びかよ・・・と前任のオンニ呼びされている先輩編集者とアジョシ待遇の編集長にうんざりし、仕方がなくもう一客のティーカップにティーバッグを突っ込んだ。

 

 

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