極秘でおねがいします その15 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「まだ構想の段階の作品だからな。いつでも要望に応えられるよう、先に下見をしておこうと思ってよ。ここの図書館が一番慣れてるしな、俺は。」

 

 用心深く答えたジェシン。ユニイは顔出ししない作家なので、作家名を言っても大丈夫かとは思ったが、それでも何かのきっかけで自分たちの知りあいかも、ぐらいを気取られても困るので、あいまいに答えた。

 

 構想の段階、なんて甘いものではなかった。ユニが次作は、とジェシンに見せたプロットは、どこに手を入れる必要がないほどの構成が済んでいた。資料も、手に入れられるものは既に読み込んでいるらしい。ただ、実際に書き始めると、細かい描写などに当時の文化についての壁があるのだとユニは言っていた。分かっているつもりでも、想像力では補えないものがある。だからドラマや映画で時代劇を製作する方々の時代考証には、そこに映えの必要があるためのフィクションは入るとはいえ素晴らしい、とため息をついていた。

 

 できるだけリアルに描きたいんです。文化としては我が国の歴史は素晴らしいと分かっていますが、それがいわゆる両班を中心とした貴族階級に偏っていたことも理解しています。歴史ものを描くとき、どうしたって、その片側の世界だけを書くことは非常にバランスが悪いと私は思うんです。成均館という国にとって最高峰の学問所があるその横に、国で最も貶められる身分の者が住む集落がある。それが実情だった、そこもしっかり描きたいのです。文字として残っているのは両班側がほとんど。けれどちょっとした資料の中に庶民、虐げられた側の人々の暮らしを探し出すことができます。手間ですが、そこに手を抜きたくはないんです。何か資料があれば、どんどん紹介してくださいませんか。

 

 「そうですか。編集という仕事のことは詳しくありませんが、うちの教授たちもよく本を書いているからお世話になっていますしね。先輩みたいに熱心な方だったら助かるんでしょうね。」

 

 「これが役に立つかどうかはわからねえよ。勝手にやってるだけだからな。」

 

 特に何を借りだす予定もなかったジェシンは、本を返却にきて寄っただけだというソンジュンに誘われて、久しぶりに大学のカフェに行った。昼時は過ぎていたが、若者の活気があふれる店内の隅っこで、お互いの近況を少し話した二人。

 

 ジェシンは割と連絡無精で、そういうのにマメなヨンハが補完してくれるままに任せている癖がある。ソンジュンはやはり連絡を取る率が高いのは同級生のユンシクで、彼が今、ヨンハの下で働いて忙しくしていると教えてくれた。

 

 「ヨンハは人使いが荒いだろ。」

 

 ヨンハの付き人のようなク家の使用人とっくのことを思いだして、ジェシンは苦笑した。あいつはいつ休んでるんだろう、と思うぐらい、トックはヨンハの面倒をよく見ていたのだ、ジェシンが知る限り。

 

 「そうでもないみたいですよ、というか、ヨリム先輩自体がすごくお仕事の多い人みたいで、文句は言えないようです。それに、大きな声では言えないけれど、同年代からすれば、結構な月給らしいから、何とか奨学金も完済するめどがついたって・・・。」

 

 「ああ。そうだった。大学の半分は奨学金で賄ったんだったな、あいつ。」

 

 「そうです。だからこの間も・・・サラリーのいいユンシクですら、ボーナスやら実家暮らしやらでお金をためて返した奨学金を、ユニさんは一年目で全部親御さんに返したって・・・それも奨学金だけでなく親御さんが出してくれた学費も含めた額を一度に。何の仕事なのか、と未だに悩んでるんですけど、ユンシクは聴けないらしいんですよ。」

 

 「連絡は・・・その、メールだけだったか。」

 

 「未だに許してもらえないって落ち込んでました・・・。それこそ俺だって迷惑かけた側だから何も言えなくて。」

 

 「お前が意図したわけじゃねえんだろ。そんなのユニさんだって分かってるよ。それでも・・・顔を見たらしんどいこともあるのかもしれねえよ。」

 

 やはり話はそこに行きついてしまった。

 

 

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