極秘でおねがいします その5 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「仕事上の引継ぎは、現在進行中のものは基本把握しているので。」

 

 ユニの部屋のリビングに落ち着くと、ジェシンはまず仕事のことについて口を開いた。先輩編集者からすべての書類、データを引き継ぎ、進行状況、予定なども把握している。次回作の上梓の途中で編集担当が変わることになったので、ジェシンは最後の仕上げ、装丁から印刷等から関わるのだ。作品発表、広告などは、すでに予告として出版社が抱える小説雑誌を含む他媒体、ウェブ雑誌などに至るまで出してある。

 

 「はい。この段階に来ると文の校正などの確認以外はお任せしているので、よろしくお願いいたします。」

 

 ぺこりと頭を下げたユニは、顔を上げてからじっとジェシンを見つめてきた。ジェシンはぺろりと顔を撫でて、首をかしげて見せた。

 

 「先輩の書かれた記事は、いつも読んでいました。スポーツは自分では何もしないんですけど、試合とかを見るのは大好きで、オリンピックを含む国際試合は、夜更かししてでも見ちゃう・・・。だから関連のウェブ記事に先輩の名前を見つけて、たぶん私の知っているムン・ジェシンという人だと決めつけてたんですけど、当たってた~。」

 

 「本物の物書きをしている奴に言われたら恥ずかしいぜ・・・。」

 

 「分かりやすくて、余計な感想はいれていないのに、ものすごく真剣にその競技を見た、っていう情熱が伝わる文です。あの文字数でそれを伝えるのは凄いわ、記者さんってすごい、って思ってました。」

 

 もういい、と掌で止めるジェシンに、お茶、入れますね、とユニは席を立ってキッチンへと向かった。その背を見送りながら、ジェシンはそっと部屋を見回した

 

 ユニはソウルでもそこそこ地価の高い場所にある高層マンションに住んでいた。高いところは嫌なので、という事でてっぺんの方ではなかったが、それでも6階だった。大家族向けではない。単身からせいぜい親子三人ぐらいのファミリー層だろうと思われる間取りで、エントランスにはきちんとした管理人が常駐している、防犯上も安心そうな高級マンションだった。

 部屋の中はシンプルで、玄関にはユニの常用のものとおそらく来客用と言っても履いていたのは先輩編集者だっただろうスリッパがあるぐらい。通されたリビングは、ガラスのテーブルとベージュの布張りのソファがセットされ、壁には大きな書棚、そして対面キッチンのカウンターに寄せて小さな二人掛けの食卓テーブルがあるだけだった。壁はシンプルなオフホワイトの壁紙。写真や絵が飾ってあるわけでもなく、唯一華やかなのは、書棚の隣にある扉付きの小さな棚の上に置かれた花瓶の花だった。

 リビングに出入りする扉は二つ。玄関からリビングに入るまでに三つのドアがあったから、一つはトイレ、一つは浴室、そして一つは寝室か仕事場かわからないが部屋。ここにある扉の一つの向こうには、もう一室部屋があるのかクローゼットなのか。

 

 いい香りをさせてユニが戻ってきた。紅茶はお好きですか、聞かずに入れちゃった、と言いながら、カップと共に陶器のポットまで運んできたところを見ると、お代わりもあるらしい、とジェシンはほほ笑んだ。キム・ユニという娘は、とても食いしん坊で、ジェシン達の前でも気持ちよいぐらいに健啖家だった。一緒に持ってきた菓子鉢に盛られたクッキーに、そんな学生時代の姿が思い起こされた。

 

 「一つだけ先に聞いていいか。」

 

 ジェシンが紅茶を一口飲んでから言うと、はい、とユニはかしこまった。

 

 「俺は、君の・・・昔の、学生時代の知り合いだ。俺は今もずっと、ヨンハを始め、イ・ソンジュン、それから君の弟シクとも仲間づきあいを続けている。それでも俺が担当になってもいいんだろうか。」

 

 ユニはじっとジェシンの目を見つめてきた。

 

 「勿論、編集者としても、君の先輩としても、君の願いは必ず聞くし約束は守る。だが、俺の付き合いのことを考えて、君が不安になる事はないか。」

 

 ユニは大丈夫です、とほほ笑んだ。

 

 「先輩を信頼しています。元々信頼している人だったのに、あの記事を読んだら余計に。どんなに真剣に目の前のことに向き合って考えて書いた記事か。そんな風にできる人が私を裏切るわけないですもの。」

 

 

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