㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「鉢ばかり豪華でも、根を浅くしか植え付けることが出来ず、水はけも悪い状態で居れば、花はたちまち根腐れして枯れてしまうものだ。」
ソンジュンの父、左議政は居間にある鉢上の葉を乾いた布で綺麗に拭き上げながら言った。ハ家のその後について老論としてはどう扱うのかを、ソンジュンはウジュの取り調べ中に一度確認に来たのだ。
皆、そう、政敵の子息同士で、お互い憎み合う関係であったジェシンですら気にしていた。確かにハ・インスは嫌な奴だった。だが、親の行った悪事に連座することの理不尽をインスが被ることは納得がいかなかった。連座が当たり前の法の中で、お前の父親は今までの吏曹判書の働きに少しは動く事はないのか、と直接聞かれたソンジュンは、よく屋敷にやってきていたハ・ウジュの姿を思い出し、それもそうだと父親に聞きに来たのだ。今回のことはソンジュンの父だって無傷ではないだろう、と思っていたが、一向にイ家に騒ぎは起こらなかったから、父が上手く渡り合ったのだろうとは思ってはいたのだ。
「吏曹判書は気が回り、役に立つ男ではあった。小役人としては大層優秀だったが、役職が上がるにつれ、欲を出した。地位も、財もだ。あの者の賄賂の要求は厳しいと度々老論の中から密告が儂にももたらされたし、時には注意もした。すべては左議政様のお役に立つためでございます、などと言っておったが、出来るだけ儂に関わることには手を出させないようにしてきた。それに業を煮やしたのか、強引に我が家に頭を突っ込む権利を作ろうとしたのだろうか、それがお前とハ家の娘との縁談だったのだ。正直、お前がはっきりと拒絶したときに、助かったとは思った。」
家とは、と父親は葉を撫でながら続けた。
「自らが花咲こうとするのではなく、自らが後の代のための根になり幹になろうとしなければならない。だが吏曹判書は自らが満開に花開こうとしたのだ。根も浅く、幹も細いのに。そこにぶら下がった忠誠心の低い使用人、親の花の大きさを永遠と見誤った娘、幹を補強さえすれば保てると勘違いした息子・・・すべてを支えることなどできず、結局は倒れた。何も、何も残らないのだ。」
「それでも、一度は老論で父上の右腕のように働いた方です。」
「そうだ。だが、人を殺している者はさすがに助けられない。だから、落ちたとはいえ、実から芽を出すことは許していただくよう、王様には嘆願をした。これ以上老論から異論が出ないよう儂が必ず押さえることで、話をつけた・・・出た芽を育てられるかどうかは、本人次第だが、身分という土と息子名義の本貫の土地は、残してやれた。」
そのことを成均館に戻って皆に話すと、ふう、と嘆息が漏れた。しかし、とジェシンは気が抜けたのかゴロンと転がり、天井を見ながら口を開いた。
「お前の親父も上手く例えるもんだな。家のための根、幹か・・・。鉢だけ豪華でもダメか・・・俺たちなんぞハ・インスと同じで、まだ芽も出していない存在ってことか・・・。」
「花どころの話じゃないね。」
「俺たちの親がくれた身分という土の上で、ちゃんと芽を出し根を張らなけりゃいけないんだなあ。」
それでも自分たちには、水をくれ、世話してくれる環境があるのだ。ハ・インスはそれを失った。厳しい彼のこれからを考えても、自分たちだって何もできないことに気付き、やはりこれからの精進を誓いあうしかなかった。
だが、ハ・インスはやっぱりただでは転んでいかなかった。
帰宅日、ユンシクがこの日は一人で茶店に行くと、ユニは元気に働き始めていた。縄目の跡もようやく消え、みぞおちの痣だけがまだうっすらと残っているらしいが、痛みはもうない、と笑顔が戻っていた。
帰宅日の晩は叔父の家に泊まらせてもらう。その時、ユンシクはユニと遅くまで語らう。学問の話を喜んで聞くユニ。けれどその晩は、ユニからの話で終始した。
ハ・インスがユニに会いに来た、そうユニが言ったからだ。