路傍の花 その3 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 まだ年若い、そう、ユニよりも三年も四年もそれ以上幼い少年儒生に、気軽に若い娘に声をかける勇気などない。学堂で孔子の教えに浸かる生活の中に、男女の立場の違いは最初に教えられるようなものだ。将来の士太夫として、礼儀正しく、と育てられることの多い少年たちは、茶と菓子を頼み、その注文をユニが取りに来ると頬を染めてユニを盗み見、叔母が来るとあからさまにほっとし、そしてがっかりするのがおかしくて、そして心配になった。こんな少年にもユニの美しさが分かるのだ。そのうち年齢に見合う青年が来たら、とかつてそれこそ一目見て恋に落ちた叔父夫婦は怖れる。常連の働く親父たちは良いのだ。大体の男は古女房がいるし、叔父夫婦と同じように少し大きい娘みたいなもので、気軽に声をかけ、可愛がってくれるだけだ。

 

 叔父は自分の元の身分は別に言いふらしてもいないけれど、妻と一緒になった背景はなんとなく周囲は知っていて、両班出身の男の姪が両班の令嬢だろうということは大体の者は勘づいている。だからこそ『お姫さん』呼びをする客がいるのだが、ユニ自体が明るい働き者のくせに、どこかやはり品が良いのが、どうしてもその出自を分からせてしまう。どこかで店からは引かせなければ、と叔父は決心してはいた。

 

 だが、ユニはたちまち看板娘になってしまい、まが陰ひなたなく働くものだから、叔父夫婦にとっても頼りになる働き手となってしまい、代わりの誰かを雇わねば、と思いはしても、ユニ以上のとなるとなかなか満足いかないだろうと分かってしまって、身動きが取れなくなってしまっていた。自分たちも忙しいから余計に。仕入れも増えるし、客あしらいにも忙しい。くたびれて帰り、共に帰ったユニが若さゆえの元気さで夕餉を下女と共に整えてくれる始末だ。うれしいやら、預かりものの子なのにと申し訳ないやら、で二人はユニの嫁入りのための金を給金がわりに貯めてやろう、この家も自分たちが死んだら残してやろう、などと寝物語に話すほどに情が移ってしまった。

 

 ただ、ユニは預かっているだけで、姪なのだ。時折様子をうかがうキム家のその後は、男がユニの弟ユンシクへの見舞いと兄の死への弔慰金だとおいていった金で薬を贖い、どうにか生活を立て直して、ユニがキム家にいる時にやり始めていた筆写の仕事を弟ユンシクが少しずつ引き受け始めていると聞いた。それはユニ自身にも聞いていた。一度だけ、弟ユンシクが訪ねてきたからだ。

 

 姉の姿を見て涙をぽろりとこぼしたユンシク。そしてユニに案内されて貸本屋へと向かった。ユニは、叔父夫婦が驚いたことに、貸本屋で仕事を貰う時は、ユンシクの格好をしていたらしい。娘では仕事はもらえないのです、と悲し気に言ったユニに字を書かせてみたら、とんでもなく上手で、それこそ店に出さずに帳簿の仕事だけすればいいと言ったぐらいだった。ユニに貸本屋で仕事を貰う方法を伝授されたユンシクは、それから筆写の内職を請け負って、生活費を稼ぐようになった。勿論学問も続けながら。それがユニからの条件だった。あなたが小科に受かれば、私もそれまで叔父様叔母様にご恩返しをできるだけして、あなたの大科への挑戦の助けになるために戻りましょう。そうユンシクを励ましたのだ。キム家の所属する派閥南人は、ようやく科挙を受けられるようになって数年が経っていた。キム家は浮上の機会を得ていたのだ。

 

 それから時折、ユニはユンシクが貸本屋に行くと言っていた日に、ユンシクの顔を見に貸本屋の近くまで出向くようになっていた。病がぶり返していないか、無理をしていないか、そして、学問は進んでいるか。ユニはまるで母親であり父親であった。それが叔父夫婦を切なくさせた。

 

 この若い娘にこんな苦労はさせたくないのに。けれど弟に対するユニの愛情に、叔父夫婦が何を言えただろう。仲を違えて家を出たはずなのに、生きて会えなかった兄の死に打ちひしがれた自分を思い出すと、この姉弟の関りに何も言えはしないのだ。

 

 だから叔父夫婦はユニを守るしかない。大事に預かるしかない。けれど、ユニは少年儒生たちのあこがれの美しい娘として、ちょっとした話題になりつつあったのだ。

 

 

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