華の如く その147 ~大江戸成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟90万hit記念。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  作品舞台及び登場人物を江戸時代にスライドしています。

  ご注意ください。

 

 

 寧信襲撃班には、葉山以外に三名ついていたという。だが、道端で待っていたのは葉山のみだった。これに関しては大目付が眉をしかめたが、葉山は冷静に言った。

 

 「正直に、すべて我が国の者だと申し上げた。ただ、未遂であることを考慮していただきたい。自分より地位の高い、目上の者に銘じられて、否、と断れる強い者ばかりではないのです。その者たちには、理を説いて文屋様のお屋敷近くで解散させました。後のことは俺が引き受けると確約して・・・。伊藤陽高様、文屋寧信様がどうしても許せないとおっしゃるならば、その者たちの身を明かしますが、上の者に左右された青二才ばかり。お目こぼしをまず願いたいと俺だけが参上した次第。」

 

 大目付が寧信に目をやると、寧信は首を静かに縦に振った。

 

 「そのことについては、陽高様にご判断いただきましょう。私はこれ以上ことを大きくすることは望みませぬ。」

 

 さようか、と頷いた大目付は、それで、と葉山に変心の理由を尋ねた。

 

 「俺は、父の立身出世への欲は息子として理解しています。だが、それによって誰よりも父のために尽くした母を悲しませたやり方は認めがたい。外に向かっての増長を家にも持ち込んだその見境のなさに、俺は父を見限った、という理由ではいけませぬか。」

 

 簡潔に申しますと、と葉山はつづけた。

 

 「葉山の家の繁栄のために兼高様を次期藩主に推す、それは父に従うことのできる事でした。その通りに俺は働いてきました。だが、江戸に出て三年近く。その間に、父は自分の子と変わらぬ年の女に入れあげ、その親族を優遇して根城と称する妾を囲う場を作り、享楽と出世欲を同じ土俵に上げてしまった。そんな混乱した思考の下に働けるような俺ではありません。そしてその態度にのっかる兼高様にも未練はない。あの方を主に頂いたとしたら、せっかく築いた高い地位など全く無駄な結果に終わることが見えてしまった。なぜなら、傍につくつもりの我が父が、兼高様の享楽を先導することが明白だからです。」

 

 俺には俺の意志があり、守るべき名誉もある。

 

 そう言い放って、葉山は黙った。

 

 菅野と共に目付屋敷の奥座敷に一旦預かりとなった葉山を置いて、在信は寧信と共に父の指揮する『此花屋』踏み込みに向かうことにした。その前に、と時間を貰って、奥座敷に向かい、菅野に今日の礼を、そして葉山にも協力の礼を言った。

 

 「俺は自分の考えを貫いただけだ。礼など無用。罪人になるかもしれない俺に頭なんかさげていいのか。」

 

 そう皮肉に笑う葉山は以前とちっとも変っていなかった。だから在信もうるせえ、とだけ返した。菅野は何も言わなかったが、ほっとしたような雰囲気が漂っているのが分かる。

 

 「屋敷のお母上の様子を、文屋の家の方から出向かせてみてこさせようか。」

 

 在信はそれが言いたかったのだ。菅野から聞いていた葉山の母親の気の弱った様子に、葉山はさぞ心痛だろうと思ったから。

 

 「余計な気を回すな。昔からの女中がついていて、余計なことを耳に入れないように言ってある。」

 

 そっぽを向いた葉山は、それでも、と言い足した。

 

 「母は・・・婿を取らねばならぬとなった時、父がいいと願ったそうだ。母にとって、屋敷の前を通っていく憧れの若者だったそうだ、父は。母は、子の俺から見ても、大層父に惚れていた。誰よりも身なり良く、といいものを着せ、恥をかかないようにといつも金を持たせ、少しでも出世すれば、俺と妹にまで自慢してきた。母にとって父がどんなに大事な人か・・・自分がどんなに大切にされたか・・・それを俺が江戸に出ている間に裏切ったのだ。惚れた方が負けなのかもしれないが、こんな裏切りはあってはならない負けだ。お前も・・・あの道場の娘に惚れているのだろう。伊藤俊之介も同じようだが・・・どちらが勝っても負けても俺には関係ないが、惚れた方が弱いんだってことを覚えておくがいい。」

 

 最後はいつものように在信への嫌みで終わらせた葉山に、在信はやはり、うるせえ、とだけしか返さず、待たせている兄の下へと足早に戻っていった。

 

 

 

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