華の如く その142 ~大江戸成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟90万hit記念。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  作品舞台及び登場人物を江戸時代にスライドしています。

  ご注意ください。

 

 

 「道を開けて頂こうか。」

 

 そう口を開いたのは寧信だった。その隣では静かに籠が下ろされ、陽高の草履が若党によって丁寧に揃えられた。

 

 「何者が我が道を塞がれるか、と言いたいところだが・・・察するに兼高殿とお見受けするが。」

 

 そう言ったのは草履をはいて出てきた陽高だった。寧信は軽く会釈して一歩下がり、それでも油断なくいつでも足を動かせるようにしているのが、在信からも見て取れた。ああ、兄上はいざとなれば身を投げ出すつもりなのだ、と理解し、在信は足を進めた。音もなく静かに、寧信の一歩後ろにつけたのだ。

 

 「わが道を塞ぐのはお手前ではないか陽高殿。」

 

 「何を言っておられる。自ら道を塞ぎつつあるのはお手前だ、兼高殿。自分が何をやっているのか見えぬのか?」

 

 「おぬしさえいなければ、すんなりと藩主の座はこの兼高の手にあったのに、あたら時間ばかり経って、このようなところをうろつくことになっておる・・・。あの頭の弱い殿を城から引きずり下ろすなど、おぬしがいなければこの手でやってのけたというのに。」

 

 寧信の肩が怒ったのが分かった。何という言いざま。

 

 「お手前がこの国の主に本当にふさわしければ、別にこの陽高の名なぞ、最初から出てこなかったであろう。何しろ江戸表に出ていましたからな。だが、お手前がすんなりといかなかったのは、お手前をふさわしくないと思うものが大勢いたということだ。そしてこの陽高が帰国するまでそのことを覆せなかったのは、お手前自身のせいだとわからぬのか。ふーむ・・・分からぬからこのような暴挙に出るのだな。」

 

 うんうん、とまじめに、だが挑発するような物言いを返した陽高に、殺気は一度に高まった。

 

 「そこにおられるのは大番組の葉山様ですか?城下でこのような乱暴狼藉にあなたが加担するなど、あってはならないことではないですか?」

 

 寧信が声を張ると、若造は黙れ、と甲高い声が頭巾の中から帰ってきた。その間に、じりじりと周囲にいる侍たちが前に出てきている。見ても、藩士はいない。すべて雇った他国の者たちの様だ。

 

 「もうついてくる者もいないという事ですか・・・。なるほど。」

 

 「口だけは達者な奴だ・・・その賢しらですました顔つきはいつ見ても気に入らぬ。陽高様とは別で灸をすえてやろうと思うていたが・・・ちょうどいい。陽高様のお供をするのだな!」

 

 甲高い声が喚き散らし、男たちが刀に手をかけたところで、在信は由、と鋭く指図をした。

 

 「籠脇を離れるな。いざとなれば戦え。俺と兄上以外は、奥様をお守りしろ。よいか。」

 

 そして在信は三歩で寧信と陽高の前に出た。

 

 「在信。容赦はいらぬ。存分に働け。」

 

 「御意。」

 

 陽高はそう言って少し下がった。戦いに空間は必要だ。剣をたしなむ陽高はそれをよく知っていた。

 

 その時、脇道の塀の陰から音もなく一人の武士が走ってきた。そして籠を挟んで在信と反対側に立った。

 

 「菅野武憲、助太刀いたす。」

 

 なに、と叫んだのはまた葉山の父の甲高い声。

 

 「菅野・・・!お前、儂だけでなく息子をも裏切るのか?!」

 

 「葉山様。俺は葉山員素を裏切ることは決してない。今も、葉山のためにここに立っている。」

 

 その会話の間に、在信は羽織を脱ぎ捨てていた。草履も後方に脱ぎ飛ばし、腰を落としている。

 

 「葉山様。自分で言うのも何ですが、俺と文屋在信は、朝木道場の竜虎と呼ばれた間柄・・・。この太平の世に、思う存分剣を振るう場を設けてくださったことだけは、感謝いたします。」

 

 「てめえ・・・よくしゃべるな、菅野。」

 

 「反動さ。普段の弁舌は葉山に任せているからな。」

 

 菅野は草鞋をしっかりと括りつけてあり、旅袴故足元は軽やかだ。そしてすでに一歩足を引き、地を踏みしめている。そんな風に在信と菅野が言葉を交わした後。

 

 一瞬音が消えた。

 

 その瞬間雪崩を打って男たちが二人に殺到した。

 

 

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