華の如く その113 ~大江戸成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟90万hit記念。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  作品舞台及び登場人物を江戸時代にスライドしています。

  ご注意ください。

 

 

 陽高の目的は、己を隠さずに堂々と見せて、己を認めさせることだった。それは在信にも伝えられていた。しかし、国元に戻ってさあどうするのか、ということは正直在信の手には余った。国元の情勢を掌握しているのは、兄寧信であり父であり、そして俊之介の父、伊藤城代家老であった。在信は、おそらく・・・口を出せば何もかもの話の中心に入っては行けるのはわかっていたが、あえてそうしてはならないと判断していた。

 

 危険であろうと目立つのは基本陽高でなければならない。存在感を誇示せねばならない。そこに在信や俊之介がでしゃばってはならなかった。そして、国の中での力関係というものを考えると、陽高の傍に控えているのは、権力の中枢に近い者たちでなければならなかった。それは若手では兄寧信であり、長老格では城代家老である伊藤俊之介の父、そして奉行職を張り続けている文屋家の筆頭である在信の父でなければならなかった。この二人は敢えて自分の旗色を鮮明にはしていない。日々国を治める職務に置いて、思想は必要ないという考えを持っているのだ。臣下、民のことを思えば、国の中を平穏に保つことが最も肝要である。国の経済を豊かに回し、安全な国にすることが何よりも必要な職務であると理解しているのだ。だからと言って、今回の後継者騒ぎを無視しているわけではない。国の跡継ぎが決まらず、朝木を納める伊藤家が廃絶されては、臣下は失業し、民は混乱する。例え納める代わりの人間がすぐに配置されたとしてもだ。いくら小さな国とはいえ、50を超える上士格、100を数える下士格、そして下士と同じだけある軽輩格、その家々に奉公する民、それらがすべて職を失うのだ。そんなことは起こってはならない。起こしてはならない。藩主の使命である国を継続させるという最も大事な命題を、在信や俊之介の父たちが無視するわけはないのだ。

 

 彼らは最初から分かっていたのだ。誰が何をすべきか、を。在信の父と俊之介の父が特に親しいと聞いた事はない。思想を同じくする仲間であることもないだろう。だが、彼らに共通するのは、次世代に正しい国を渡さねばならないという使命だ。そこが現藩主の母の親族たちと違う、と寧信は在信にかつて語った。旗色を鮮明にしない、他の者たちには日和見だと揶揄される城代家老や在信の父のことを、江戸に行くように命じた寧信に聞いたのだ。父は、他の重臣方はいかようにお考えなのですか、と。そこにははっきりしない態度を不満に思っていることが分かるぐらいだったろうと今なら思う。

 

 

 お前が日和見だと思っている人たちは、最初から誰が藩主になるべきか、など分かっていた。だが、我らはしょせん臣下。以下にご助言申し上げても、殿が決めた後継者が最終的には絶対で、臣下としては補佐申し上げるしかない。当時今の殿は幼くいらっしゃった。傍にすり寄る者たちを危惧しながらも、我らは将来に期待も持てた。先の殿もそう思っておられたろう。それが、言葉が悪いが裏切られた今・・・我らは国を守り、そして伊藤家という我らの傘を守るために、最善をとらねばならぬ。その最善をとるにあたって、以前の間違いのために妙に力を誇示する者たちがまた間違った道をとろうとしているのだ。元に戻すのには犠牲が出るだろう。だが、ここで正しい道に戻らねば、さらに苦しみが増す。先の殿と共にその先を見据えられなかった我らの父の世代の方々は、自らの職務を全うしながら、手柄はすべて我らの名にすべきとお考えなのだよ・・・。ただ、何もしないわけではない。我らの選択を最後に認めるのは父上たちだ。すでに陽高様は品定めには勝っておられる・・・あとは我ら陽高様を担ぐ臣下たちの質の高さを見せねばならない。頭を使うもの、体を張る者・・・皆で一心同体になることのできる、その価値がある方なのだと見せねばならぬのだ。お前はどちらだ?

 

 

 どちらかにせよ、とは言われなかった。だが在信は自分の立場は分かっている。無役の、冷や飯食いの次男坊だ。在信がその力を発揮する場は、その体を使って陽高を守ることだけ。ただ、に、と笑った寧信の言いたいことも分かっている。体は張る。だが、頭も使え、冷静に事に当たれ。ただの。

 

 唯の剣術狂いでないことを、この有事に見せつけて、文屋の跡継ぎであることを自らの力で知らしめよ、と。

 

 

 

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