㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「服装は・・・大変失礼なのは自分でも承知しております・・・慌てて飛び出してまいりましたので、家着のまま・・・。」
そこまで言ったところで、仕方がねえ、とジェシンは腹をくくった。服はだらしがないが、他で誠意を見せなければ意味はない、と。
「ユンシク殿が医院に療養の折、私もケガで同じ部屋にて世話になっており、そちらでご子息、ご令嬢と知り合いましてから、友人づきあいを願っております。」
「息子から聞いております。医院から戻ってきた息子のあまりの変化に、その理由を聞いたので・・・勿論良い変化で、それが今の息子の姿につながっていると理解しています。」
ユニの父も服装の事には触れなかった。ジェシンはある程度のことはこの父親は把握しているとみて、姿勢を正した。ユンシクのことに関してだが。ユニとジェシンの交流については未だわからない。
「正直に申し上げます。私がこのような不躾な訪問をしてしまったのには、私が慌てるだけの理由がございますので。」
そう言うと、聞きましょう、とユニの父は腕を組んだ。
「私は、ご令嬢ユニ殿と出会いまして、私の伴侶はユニ殿一人、と勝手に心に決めておりました。ユニ殿にふさわしい男になろうと、成均館にて自分の力をつける毎日を送っております。次の大科にて結果を出し、お家にご了承を得ようとしておりました。一つだけ・・・ユニ殿は私のこの存念は知りません。」
「あなたの、あなただけの予定とおっしゃるか。」
「はい。未だ儒生の身。そして・・・派閥の中で生きる家の子息です。こちらの派閥も存じております。何か一つ、自らの力を持たねば、たわごとを言っていると誰にも・・・我が家にもキム家にも取り上げてもらえないことも十分承知していて、それでもユニ殿しか共に生きるこれからを描けません。その力の一つ目が、大科に受かり官吏となることです。それしか武器がありません。そこまで自分に起こる縁談は停めましたし、ユニ殿も今のところないと・・・ユンシク殿から確認しておりましたところへ・・・。」
「ユンシクには何も申しておらぬが。」
「ユニ殿の書状にて、知りました。」
ユニの父は黙った。なるほど、と一言漏らすと、しばらく沈思した。ユニとジェシンの書状交換は知らなかったようだが、ジェシンは知られるのは仕方がないと思った。二人の付き合いに嘘はないが、書状のやり取りがあることはいわゆる隠し事だ。いけない事はないけれど、褒められることでもない。思いあっていることが認められている男女でなければ、何か勘繰られる行動ではあるからだ。
ユンシクが成均館に入ってから月に二回の帰宅日に行われる書状のやり取りで、ジェシンはいくつもユニに詩を教え、ユニはその次の書状で感想を書いて送り返してくる。時に田舎の風景を織り交ぜ、家族の様子も交えながら。ジェシンもユンシクの成均館での様子を書き添え、自分が見張っているから体に無理はしていないと安心させるように努めてきた。そうやって遠い距離での会話を絶やさないようにしてきた。それが面倒でも何でもないのは、相手がユニだからだ。全くその手間が苦にならない。面倒くさがりのジェシンが、だ。会えない今も、ユニという女人への想いは、醒める事はないのだ。
「この話は突然持ち込まれて、返事も急かされていない。想いも掛けない家から、そして誰の仲介もなく直接だったものだから、ユニには少し話をしたのだが・・・それをあなたに書き送った、という事ですか。」
「やはり・・・やはり縁談が・・・?」
「あります。娘も年頃。家族の世話ばかりさせていたために、私もつい先延ばしにしていた面もあるのですが、ちらほら持ち込まれるものは本人が嫌がってお断りしていたところへ今回の話だ。断ってくれとユニは言っておるが・・・。」
「相手はどこの家の者ですか?!」
「断るなら言ってよいか・・・まだユニにもどこの家の誰とも告げてはいないが、聞く前に首を振ったのでね。」
「俺が・・・俺が話をつけに行きます。」
「フム・・・まあそれなら。」
とユニの父は腕組みを解いて、ジェシンをゆるりと見つめた。
「縁談を申し込まれた家は、小論、兵曹判書ムン・グンス様のご子息との縁談。ムン家におかれては、ご子息が官吏となった暁に話を勧めたいため、次の大科までにお返事を頂きたいと、猶予のかなりあるお話ではありましたな。」
ジェシンは口をあんぐりと空けた。