㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニとの書状の交換は続いていた。今はユンシクが直接受け渡しの仲介をしている。勿論ユンシクだってジェシンの目的を了解していての話だ。聞かれたのだ。分かるだろうが、と顔を背けてみても、こればかりは可愛い後輩のユンシクも許してくれなかった。あなたの、コロ先輩の気持ちは分かっていますが、それでもその口から、はっきりと言葉で聞きたい。この手紙の交換の先に何が待っているのかを、と。
「俺の未来の花嫁に決まっているだろうが。」
その一言で、ユンシクは納得し、一年余りの成均館儒生生活に訪れる帰宅日の書状配達を請け負った。何しろ二人は会えないから。
その頃、ユンシクが健勝になった代わりのようにキム家では母の目がどんどん悪くなっているという話だった。ユニが主婦として家の切り盛りをしなければならず、ジェシンとしては口に出せない安堵が胸に湧いていた。
ユニが他の家との縁談に応じなくていい理由が出来たからだ。勿論母親の体の具合は気の毒だ。だが、長年のユンシクを案ずる気持ちが緩んで疲れが出たためだろうという話だったので、そんな不埒な考えを持ってしまった。
自分の父には啖呵というか宣言をし、ユニのところはまだユニに縁談はないだろう、と思っていた矢先、ユンシクが持ち帰ってきた書状を握りしめてジェシンは立ち上がった。
「シク!ユニ殿に縁談が持ち込まれたって本当か?!」
「え?!」
ユンシクは本当に、目を丸くした。隣にいたソンジュンが思わず掌を顔の前に差し出しそうになるぐらい、人って本当に目の玉が落ちそうになるぐらい見開くことがあるんですね、と後にヨンハに冗談でもなく言うぐらいに。
「読んでみろ・・・。」
ユンシクが何も知らないと見て取ったジェシンは、ユニからの手紙をユンシクに押し付けた。ソンジュンは差し出しかけた手を宙ぶらりんにしながら驚いている。流石に書状を渡すときはソンジュンにわからないようにしていたので、訳が分からないのだろう。
「え、ゆ・・・に?殿・・・というのは?」
「僕の姉。ちょっと待ってソンジュン・・・。」
せわしなく書状を読んだユンシクは途方に暮れたように顔を上げた。
「サヨン、僕全然知らない。話にも上らなかったよ。でもここに書いているということは、えっと、昨日より前にこの話はあった、ってことだよね・・・。」
ジェシンは立ち上がった。もう夕暮れだった。人のいないところでゆっくりと書状を披いたのだろう、部屋の外から飛び込んできたジェシンは、ぞろりとした長衣のまま笠をひっつかんだ。
「コロ先輩、どこへ?!」
ソンジュンが叫ぶと、
「うるせえ!」
と叫び返したジェシンは飛び出していった。
「もしかしなくても・・・僕の実家に行ったよね?」
「もしかしなくても、行ったね。で、どういうことだい?」
ソンジュンの声に、ユンシクは呆然としたまま口を開いた。
「サヨンはね、僕の姉上を好いていてくれて・・・大科に受かったら姉を花嫁にしてくれるって約束してくれてて・・・。」
「そうそう。もうべた惚れ。それでコロはどこ行った?」
ヨンハが入ってきて聞いた。腰をさすっている。
「そこでさあ、コロに突き飛ばされたんだけど。で、その話をしてるってことは、ユニ殿に何かあった?縁談でも来た?」
うわあ、という顔でヨンハを見たソンジュンとユンシクに、それぐらいしか思いつかないだろ、とヨンハは笑った。
「手紙を見せてみろよ。」
と言いながら、勝手にユンシクの手から取り上げて、ヨンハは読み下し、そしてふうん、と言った。
「思いもかけないところから縁談が持ち込まれている、とお父上がおっしゃっただけなんだろ。受けるとも、進むかもしれないとも書いてないじゃないか。」
「けれど年頃の娘ごの縁談は、親の裁量で簡単に決まるものです。」
「うん。それは知ってるけど、それなら決まったとしか本人には言わないんじゃないかなあ・・・。そんな勝手なことをするお父上かな?」
「そうですね。うちはずっと姉の働きが必要な家ですから・・・実は姉が自覚しているより姉の意向というのはかなり重要なんです。姉が嫌がることは・・・しないですねえ・・・。」
大事にならなきゃいいが、とヨンハは言いながら外を見た。
「俺が心配なのはさ、コロ、あの格好でお前の実家に向かったんだろ、テムル・・・。流石に、道袍ぐらい着ていっても良かったんじゃないかと思うんだよなあ・・・。」