㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニがジッとしていると、ジェシンも安心するのか腕の力が緩んだ。離してもらえたわけではないが腕も足も隙間ができたのを感じた。さっき、胸の中で暴れたぐらいではジェシンを起こす効果はなかったのは理解したユニ。元からジェシンは朝に強くない。酒を飲んだ次の朝は特に、成均館の時でもジェシンを揺り起こす役目はユニだった。ユニ以外が起こすと機嫌の悪さが違うのだとヨンハにまで言われた。ユニが起こしたって別に機嫌はよくないのに、と思ってはいたけれど、とりあえず起きるのは起きたのだ。昨夜は宴の席で祝いに来る客皆と杯を交わすぐらい飲まされていたのを先に席から辞するまで隣で見ていたし、実際新床に来た花婿ジェシンは酒臭かった。その後。
ユニは一人赤面した。自分の今の姿を手探りで少し確認する。正直、腰から下は頼りないものだった。重だるいし、締め付ける紐の感触もない。ということは何も履いていないということ。胸元辺りに布があるが、薄絹一枚だけだ。それも羽織っているだけ。
思い出すというか思い出せないというか。酒の匂いも強いジェシンが、それでも真面目な顔で二人の部屋に入ってきて、用意されていた祝いの膳の上の杯に酒を乱暴に注ぎ、呷ったあと、祝宴の間中おそらく我慢して着付けられたまま過ごした真新しい美しい濃紺の道袍を、ユニを見つめたまま乱暴に脱ぎ去った。なのにその後の動きは大層静かで、するりと用意されていた床の上に座り、すでに大掛かりな衣装は脱がしてもらっていた、真珠色のチョゴリと玉虫色のチマ姿のユニの手をそっと引き寄せた。
「大切にする。お前を。お前のこれからを。」
ユニがはっきり覚えているのはここまでだ。そこからは思い出すのも恥ずかしい、とユニは身を少し縮めた。何しろ、そこからユニの記憶の中にあるのは、ジェシンの体の熱と息遣いと、体を這う彼の手や唇の感触と、彼の思いつめたような、切羽詰まったような眉をひそめた表情と、そして視界に広がる天井の模様だった。何度か気を失いそうになるほどの痛みと、けれどその後に糸を引くように残る背筋を駆け上る震えとに翻弄されて朦朧とし続けたユニにとって、眠る前の記憶は、紙張りの窓の向こうの薄青い色だった。
眠りについたのが夜遅くというより明け方近くだったのだ、とまでは理解したユニ。けれど、いくら何でも起きなければならない。ジェシンを起こすのは、そう、成均館の時もこれからもユニの仕事になったのだ。サヨン、起きなきゃだめよ。
ユニはすっぽりと自分を包んでいるが、さっきよりも緩んだジェシンの体の中で素早く動いた。一発。そう、ちまちまと暴れるだけではだめなのだから、一発、一回で起こそう。ユニは肘を起点にジェシンの胸をグイっと押して、二の腕の長さ分体を離し。
勢いよく曲げた膝をへそと股間の間に走らせたのだ。
ぐうっ!と大きく唸ったジェシンは、咄嗟に下腹をかばうように腕を動かした。ユニはそのすきに床の中から転がり出て、ついでに二人にかぶさっていたかけ布も共に引きずった。長衣をそれこそは追っただけのジェシンは、下腹、正確には股間を押さえながらうなり声をあげて起き上がり、くっそ、と呪詛を吐いている。
「・・・てめえ・・・俺のが役に立たなくなったらどうすんだ・・・。」
うめくように言うジェシンに、思ったよりもそこそこ大事なところに当たっちゃったのかも、とユニはちょっぴり反省した。けれど、ユニとジェシンがそうやって動き、声を上げたとたん、部屋の外から遠慮がちに声が掛かり始めたので、それどころではなくなったのだ。
「・・・サヨン、もう起きる時間にしてはだいぶ遅いみたいなの。支度して、お義父上様にご挨拶に行かなきゃ・・・。」
「・・・寝るのが遅かったんだ・・・今朝ぐらい朝寝したっていいじゃねえか・・・。」
髪を掻きむしって唸るジェシン。こんな無礼なことをしてもジェシンはユニに怒らないのだ。ユニは自分がしでかしたことなどどこかへやってしまって、嬉しくなってしまった。だが、外から声はかかり続ける。若様、若様、旦那様がお待ちでございます。若様、若奥様のお世話をしに入ってもよろしいですか。若様、若様、若様若様若様・・・。
「うるせえ!さっさと入ってこい!」
ユニは被っていたかけ布を、さらに体に巻き付ける事しかできなかった。