㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
この内輪のやり取りだけだったものが、ユニたちが会試に合格したとたん、騒動に発展した。ここからは実話であり、ありのままを書いた。あとから俯瞰してみれば、ものすごく滑稽な話なのだ。下履きを履いて会試に望んだヨンハは確かに合格したし、履きはしなかったけれど一応‘所持‘していたユニも合格したのだ。ソンジュンやジェシンは皆から合格当たり前と思われていた節があったから、ヨンハとユニの合格は、下履きの迷信に真実味を持たせたのかもしれない。
『・・・「これでお前たちの部屋は全員合格したのだから、誰の下履きを手に取ったとしても、どれでも合格者の下履きだ!あははは!」と笑うヨンサンを、ソンタクはぎょっとした顔で見た。ジェインは何も言わずに走り出した。ジョンミンは一瞬意味が分からなかった。だがジェインのあとを、気が付いたように突如走り出したソンタクの後ろ姿を見て、は、と気づいた。そうなのだ、合格者の下履きを持っていれば、あまつさえ履けば、試験にご利益がある、そう大笑いするヨンサンが吹聴していて、その上実行したヨンサンは合格しているのだ。所持していただけのジョンミンも合格したのだ。これからは、ジョンミンたちの下履きが合格者の下履きになるのだ。「ダメだよう。下履きを人に使われるなんて、恥ずかしいよう・・・」とジョンミンも遅ればせながら走り出した。もうジェインはおろかソンタクの後ろ姿も見えない。合格者の名を張り出した王宮の門前から成均館はすぐ隣のようなものだが、それでも一瞬では移動できるわけがなく、部屋に行きつくには門から少し距離もある。手足を動かしてジョンミンは必死に走った。恥ずかしいし、ジョンミンの下履きは、姉が懸命に働いて溜めた金で贖った貴重な麻布を、母が心込めて縫ってくれた大事な数少ない衣服なのだ。ジョンミンの体が冷えないように、汗をかいても肌に影響がないように、寒い時には風からその一枚が体温を守るように、祈りを込めて一針ごとに縫ってくれたものだ。簡単に人に譲るわけにはいかないものなのだ。ハアハアと情けなく息を上げながらたどり着いた部屋の前には、すでに数人もの儒生が固まっており、扉の前には肩を怒らせたジェインと、無表情で威嚇するソンタクの姿があった。この二人は体格がいいので儒生たちは遠巻きにしていたが、息を切らせて到着したジョンミンを見つけた一人が声を上げると、一斉にジョンミンに詰め寄ってきた。下履きを譲ってくれ、肌着でもいい、帯はどうだ、ただとは言わない金は払うよ、なあ、俺とお前の仲じゃないか。あとから追いついたヨンサンは、この間までジョンミンのことを馬鹿にしていた奴らまで媚びるように、いや、半分脅すように迫っているのを見て分けて入った。その前にジェインが蹴散らしてはいたが、皆必死だからなかなかにしぶとかったのだ。ソンタクの背後にジョンミンを隠し、ますます怒るジェインを横目に、ヨンサンはにこにこと、さて、と扇を振ったのだった。・・・』
あの後、さすが商売人、と思えるほどの手さばきでヨンハは話をつけたのだ。ジェシンとソンジュンが中二坊に必死に駆けたのは、勿論ユニの下履きを守るためだった。キム・ユンシクの下履きはすなわちユニの下履きなのだ。慕う女人が直接肌につけているものを他の男に渡すなどとんでもないことだ。ジェシンが反射的に体を飛び上がらせて駆け、ソンジュンも必死に中二坊に駆け戻ったのは、自分のではなくユニの下履きを守るためだった。間一髪で部屋に押し入られることを阻止したぐらい、部屋の前には人がいた。そしてすったもんだの挙句、ヨンハが仲立ちして、ユニのものを省く三人の下履きを売ることで手を打ったのだ。文句は出たが、ユニの着物は数少なく、母上が丁寧に作った大切なものなのだと説明したら、さすがに儒生、母の名でとりあえず沈静化した。一番人気はソンジュンのもので、いわゆる成績順に高値がついたのは仕方がない。それも今は笑えるが、あの時は皆必死だったのだ。
そして、この最終巻の評判を纏めると、この下履き騒ぎの挿話が最も人気があったらしい。変よね、とその話を聞いたユニが笑うと、
「たかが下履きのために天下の成均館儒生が必死に走ったり、交渉したりするのが滑稽なんだぜ。俺たちも恥ずかしいことしてたんだな。」
と一緒になって笑うジェシンが隣にいて、ユニの間もなくの幸せを約束していた。