ある作家のネタ帳 その56 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 『・・・その幽霊はな、ずっと素読をしてるんだ、とウォンは言う。「なぜかその部屋はいつも冬になると空き部屋になるんだ。なのにそこから夜な夜な声が聞こえる。ブツブツと。決して大きな声ではないが、途切れなく聴こえるんだ。でな、肝試しにその部屋に行こうとするバカな奴らがいて、そいつらが近づくとな、扉がバタン、と開く。誰も触ってないのにだぞ、ジョンミン。勿論灯りもないその部屋は真っ暗で、まるで深い穴の入り口のように見える・・・自分たちが怯えているとお互い思われたくない奴らは、そこから部屋に入ろう、とか覗こうとかするわけだ。そろそろと近づくとな、その真っ暗な誰もいないはずの扉のところにぼうっと・・・ぼうっと儒生姿が浮かび上がる・・・青白い顔で窶れた姿・・・そして言うんだ、まだ足りない、覚えきれない、眠っていては間に合わない・・・だんだんと声がかすれていき・・・まだ眠れないのに息が苦しい、胸が痛い、でも寝てはならない、覚えることが多すぎる、間に合わない、息ができない・・・寒い寒い寒い・・・!」最後を大声で叫んだウォンのせいで、ジョンミンは飛び上がった。そしてウォンにしがみつくと、ウォンはもったいぶって先をつづけた。「物見高い肝試しの奴らはその時初めて気づいた。姿が変わってるんだ。さらにやつれ髪はおどろにほどけ、誰が見ても病人の姿になってる。だがその手には論語を持ち、反対の手には筆。だが一番恐ろしいことに皆気付くんだ・・・目がな、真っ黒なんだ。白目がない。穴が開いてる・・・いや穴が開いているみたいに真っ黒で、なのにその目が自分たちをにらんでいるように感じるんだ、そしてゆらりと動く、苦しい、寝てはならない、という訴えの間に素読が入り、ふらりふらりと近づいてくるように・・・見えてっ!」「「「ぎゃあ!」」」「逃げ出すんだ皆。呪い殺されるような恐怖が追いかけてくるようで振り向きもできない。朝になってその部屋の前に行ってみると、扉は閉まっているし何事もなかったかのように静かだ。部屋の前の土が乱れて、自分たちが実際にそこにいたことだけは明らかだ。守僕に命じて扉を開けさせても、隅に積まれた小机があるだけの空っぽの部屋・・・。だが、次の年もまたその部屋は冬前に空になり、そして真冬のある夜、前年とは違う儒生たちがその幽霊に遭遇する。それを繰り返してるんだなあ、成均館は。」ジョンミンは怖くてウォンにしがみついていた。一緒になって聞いていたウォンと同室の儒生二人も一緒に悲鳴を上げてしがみついたのだが、お前たちは重い、とウォンに振りほどかれている。仕方がなく二人で抱き合っているのがおかしい。けれどウォンにだっこされている状態のジョンミンの姿だって結構おかしいに違いない。「怖いよう、僕夜中に部屋に帰るんだよう、その部屋の前を通ってるかもしれないよう。」「ヨンサンが一緒だろうが。なら大丈夫だ。」「どうして?」「あいつは幽霊なんぞ信じてないし、幽霊に同調する理由が一つもない。大科には受かりたいだろうが、受からなくてもあいつは困らない。だが幽霊になるような儒生は、受からなければ困るやつらばかりだ。家が貧しい、立身出世の唯一の機会、これを逃せば故郷に帰れないとか。だから、面白がる奴らの中にも多分いたんだ、そういうやつが、幽霊に同調してしまう奴がさ。お前は・・・ジョンミン一人にならなきゃ大丈夫だ。ヨンサンもそうだしソンタクもジェインも、幽霊の怨念より強いだろうよ、意志が。お前が引っ張られないぐらいの力があるさ。」・・・』

 

 「ドヒャンは本当にあんなこと言ったのか?」

 

 幽霊話は確かにドヒャンに聞いていた。ドヒャンは無駄に成均館に長くいるから、学問以外の余計なことだってよく知っている主みたいなものだった。ユニを怖がらせてしがみつかせて面白がっていたが、それでも体を心配してくれていたのは確かで、お前は大丈夫だからちゃんと食って寝るんだ、とよく諭してくれていた。だが。

 

 「ううん・・・幽霊と同調する云々は私の作り話・・・私なら引っ張られるかも、と思ってたのは本当だけど、サヨンたちがいるから大丈夫、って念じてたの。それを代わりにウォンに言ってもらったわ。」

 

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