ある作家のネタ帳 その53 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 その後の話は、勿論大科、科挙に向けての四人の勉強ぶりと合格までの過程だった。事実と違うのは、合格してほんの少しの間研修のような期間の官吏をした後、すぐに清に留学したことだった。実際は一年にわたって従事官として勤めている。その間にも事件はあったが、『虹の四人衆』の話は儒生としての若者の喜怒哀楽を書くのだと決めていたユニにとって、従事官時代の話は蛇足みたいなものだった。

 

 「姉上は本当に大切にされていたんですね。」

 

 「贅沢なことに、当時は不満だったのよ。私だってもっと勉強できる!ってね。」

 

 「その通りにお書きになりましたね。」

 

 実家に戻り、束の間キム家の娘に戻ったユニ。一か月も経たないうちに、ユニはまたキム家を出ていく。けれど今度は嫁ぐため。寂しくもめでたい旅立ちなのだと、家族三人がそれぞれの立場で胸をなでおろしていた。

 

 ユンシクとの会話は穏やかなものだ。ユンシクはユニの日誌を、それこそ四書五経を暗記するのと同じように頭に叩き込んできた。何があってもするりと取り出せるように。それがユニの努力への報い方であり、ユンシクにはそれしかできる事はなかった。ユニが築いたキム・ユンシクとしての在り方をまず踏襲し、それが出来て初めて自分自身の成長があるのだとはやる心を押さえて世に出た。ユンシクだって人並みの自尊心も向上心も、それからちょっとした虚栄心だってある。だが、それらを出すのは完全にユニの『キム・ユンシク』と合致してからでなければならないと肝に銘じたのだ。ユニの努力、献身を完全に理解できることは生涯できず、それならばユニの努力、献身によってつくられた道をきちんと歩くことがユンシクにできる最大の恩返しだったからだ。その考え方を誰にも言ったことはないが、ユンシクの行動でソンジュンやジェシン、ヨンハは納得してくれているのが分かったし、ユニも安心したようにユンシクの健康だけを気遣う立場にいてくれた。これでいい、とユンシクの胸は穏やかだ。その上、苦労をさせた姉がようやく自身の幸福を手に入れるのだ。もう一つユンシクの胸の安堵が増えたのだ。

 

 それでも、日誌ではわからなかった感情の機微が、このように小説になるとよくわかる。勿論創作の部分が多いが、それでも似たような情景、似たような会話をしてきたのだろうと思うと、この小説をユニが書いてくれたことがありがたい。ユンシクの記憶は箇条書きの事実しかなかったが、小説を通して、頭の中に画が浮かび、生き生きと動き、ようやくユニの記憶、体験が肉づいて自分のものになって行くのが分かるからだ。

 

 『・・・この国の冬は寒い。息は昼でも白く、夜になれば土まで凍り付く。それでも各部屋はオンドルのおかげでほのかな温みを感じられた。だが、講堂は違う。板敷きは冷たく、広い面積高い天井が空気を温めることを拒否しているかのように凍てついている。そこに夕餉のあとになると一人、二人と吸い込まれていく。それぞれが布団と燭台を持っていた。講堂の小机の前に座ると、彼らは火を灯し、頭から布団をかぶる。そして学問に没頭するのだ。あまりの寒さに眠りさえやってこないこの講堂は、どんなに優秀なものでも合格が約束されない科挙の勉強にもってこいだった。誰よりも長く勉強し、誰よりも多くの本を、文を、言葉を覚え、理解し、操れるようにならねばならないのだ。時間などどれだけとっても足りなかった。勿論四人衆もその中にいた。なのに、ジョンミンは夜中を過ぎると部屋に追い返されるのだ。その手順はこうだ。まず、ヨンサンが音を上げる。ヨンサンは大事に大事にくるまれて育ったものだから、寒さに大層弱い。講堂に来る者たちの中でも特別豪華に防寒しているにも関わらず、最初に寒さに負ける。厚着をし、毛皮の袖なしを羽織り、誰よりも分厚い布団をかぶり、足の下にも毛皮の座布団を敷いていてもだ。そのヨンサンが立ち上がった時点で、ジェインが動く。ジョンミンの布団を頭からはぎ取るのだ・・・』

 

 「これ、本当なんですよね、姉上?」

 

 「ふふ・・・本当なのよ、サヨンってば乱暴でしょ?」

 

 ユンシクはほほ笑む。ユニの思い出にはいつでもジェシンが顔を出す。本当に二人は寄り添っていたことがよくわかるのだ。

 

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