ある作家のネタ帳 その37 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 書いた詩が『子衿』だと言うと、ヨンハどころかソンジュンもユンシクもポカンとした。しばらくして納得したのはユンシクだけで、あとの二人は不可解だと言わんばかりの表情が変わらない。

 

 正直、本当に情緒のない奴らだ。

 

 とジェシンは呆れたが、逆にほっとしていた。羞恥心はあったのだ。自分でも認めている大きな体と男臭い風貌に、この詩は似合わない。だが、ジェシンが多く作り出す詩は、どちらかと言えば女人が書いたかと間違われそうなほど、雅で美しく、情感たっぷりなものが多い。若いからかもしれない、とかつては思い、例えば場に応じて激烈な言葉選びも、勇ましさを表す詩も書けるしそれも評価は高いが、好みは美しさが溢れるものの方に変わりはなかった。『子衿』も男性詩人が書いたという説の方が強いものだが、おかしなことではないと思っている。自分のように体躯に恵まれ、武も好きな男であっても、美しいものを愛で、かわいらしいものに愛情を注ぎ、手元に置きたいという感情は当たり前にあるのだ。この『子衿』という詩の可愛らしい心情を表す文面の中に、必死で切ない人を想う気持ちが溢れている、その情熱が分からない、というかジェシンの中の想いと詩に溢れる情熱が同じものだからこの詩を書いたのだと理解できない二人がおかしいのだ。

 

 予想はついた。言葉だけを掬い取って、どうしてコロ先輩はこんな少女の詩を、と思っているのがソンジュン。そして、女にやるのにどうしてそんな色気のない詩にしたんだ!と思っているのがヨンハだ。そしてその通りにヨンハは叫んだものだから、それを当ててしまったあまりの残念さに、もう一度丁寧にヨンハを殴ったジェシン。

 

 救いはユンシクだった。ユンシクだって別に詩が得意なわけではない。だが、ソンジュンとヨンハよりはよっぽど情緒と空気というものを理解するだけの柔らかな心を持っていたようだった。

 

 「ありがとうございます、コロ先輩。姉を・・・娘としてずっと見てくださって・・・。」

 

 詩の書き手の気持ちがどちらに当てはまるかとは聞かなかった。どちらでとられても良かった。ジェシンは自分のユニへの気持ちとして『子衿』を選んで書いたのだし、ユニはそれを見て自分の気持ちだと言った。どちらでも同じなのだ。だが、ソンジュンが少女の詩だと理解し、ヨンハが色気がないと叫んだ通り、この詩はあまりにも初々しく瑞々しい恋の詩だ。ジェシンは既に30歳になろうとしているし、ユニだって少し下なだけ、少年少女ではないし、お互いに婚期を逃している男女だ。完全な大人。だが、ジェシンはこの詩を選んだ。

 

 出会った時と変わらない思いを持ち続けているということを。

 出会った時の彼女も今の彼女も可愛い女だということを。

 出会った時娘でいられなかった彼女を。

 自分にとっては美しい娘としか映らないのだという想いを。

 その娘をこの手から視界から、自分の傍から離したくないのだと。

 

 自分まで照れたように頬を上気させてほほ笑むユンシクに、あの日のユニの微笑みを重ねた。どうして私の気持ちを知ってるの、と聞いたユニ。知らなかったぜ、とジェシンはユニを抱きしめた。自分が持つ想いが通じればいいと思っていたが、守り切ることが出来れば通じなくてもいいとさえ思った。そんな相手はユニしかいなかった。自分の心を押し殺してまで相手に自分の気持ちを捧げることができるなんて、一生に一度もないかもしれないのに、ジェシンは出会ってしまった。成均館で。報われたいとは思っても、報われなかったら恨むこともないのも分かっていた。それぐらいジェシンは、ユニを愛している。

 

 伝われ、と抱きしめる。未だ男装のユニ。また一つ、架空の名で生きたユニ。どれだけ自分の人生をあきらめたのか、と守りながらその細い体を支えてやりたいと願ったか。やっと、やっと。

 

 だれ憚らず抱きしめてやれるのだ。

 

 ありがとうございます、とまた呟くユンシクに、浅く、けれどゆっくりとジェシンはうなずいた。

 

 

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