ある作家のネタ帳 その34 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 誰が言うか!と怒るジェシンとすがるヨンハのひと揉めはしばらく続いたが、ジェシンがヨンハの要望に応える事はなかった。

 

 ジェシンがソンジュンやヨンハを退けてユニの最も近くに場所を占めることができたのは、本当に偶然が始まりだからだ。あの衝撃的な湯あみ目撃から始まり、ジェシンはユニを注意深く、しかし縛り付けずに守ってきた。これがソンジュンだったらどうだったろう。優秀すぎる儒生の頭脳は、女人がいかなる理由でも成均館という女人禁制の場にいることを許容できなかっただろう。特に出会った初期では。ユニが娘だと知っても同じ時間を過ごすことを選んだ時は、すでに1年が過ぎ、ソンジュンにとってはユニはなくてはならない親友となっていた。それにユニの頭脳を認めてもいた。女人と知って自分がユニに持った不可思議な感情を恋慕だと理解してなお、ソンジュンはユニと儒生同士、官吏同士として同じ場にあることを望んだ。それぐらいユニはソンジュンにとって大切な友人になっていたのだ。

 

 初期に知ったのにユニの存在をそのままにしたジェシン。これも偶然だが、ジェシンの性格によるだろう。ソンジュンと違い優秀ではあったが多少生活も考えも荒れて捨て鉢になっていた当時のジェシンは、真っ向からユニのしていることをおかしいと断ずるだけの気持ちは持てなかった。勿論儒学を学んでいるものとしての倫理観は、なんてことをしている、とジェシンをうろたえさせた。だが、そうやって世に逆らう行為を必死にしているユニにさらなる興味が湧いたのは事実で、その上ジェシンは少々面倒くさがりだった。このままで行けるなら、と様子を見るその余裕は、性格だといって差し支えないだろう。

 

 これがヨンハではまた違う。ヨンハは様々なことを面白がる質だが、その生い立ち、両班の権利を買い取った家の2代目、という立場から、両班の男の在り方というのにこだわりがあった。普段は金があることを隠しもせず、日和見的な態度でひらひらと仲間内を飛び回っているくせに、その胸の中には、両班の子息としてこの世にある、という誇りをなくさないように、その自尊心を保つことで精いっぱいだった。ユニが成均館にキム・ユンシクとして入ってきたとき、あんな綺麗すぎる男はいないとユニの正体に最初に疑問を持ったのはヨンハだったが、あの時にユニが女人だと知ってしまっていたら、何らかの手段を使って追い出していただろう。それはヨンハは自分でも認めている。いくつかの出来事を超え、ユニが必死に食らいつき、学問をするさまを見て、ヨンハはユニにほだされたのだ。親友のジェシンがユニを気に入ったということも大きな理由の一つではあっただろう。人と交わらないジェシンが、はたから見ると異様なぐらいかわいがる弟分。ヨンハとユニの関りの始まりはそこなのだ。

 

 ジェシンは最初にユニの秘密を知ったがために、逆にユニに心を許した自分がいることを自覚している。赤壁書という秘密を持つジェシン。ヨンハは勝手に知っていたが、誰にも言ったことがない。正規の王朝の政治に対して糾弾の声を上げるのは、王に反逆することとされるのだ。例え王が許したのだとしても。王までその声は届かず、官庁で処理されて断罪される。誰にも共有させられない秘密だった。だから顔も見せた。腹を裂かれたあの日、逃げながら浮かんだのはユニの顔だった。治外法権の成均館の敷地に逃げ込んで、倒れそうになる体を引き上げたときに見えた彼女の姿に、ジェシンはもう死んでもいいと思った。自分が一方的に彼女の秘密を知っている羽目になっているのだから、彼女も知ればいい、と思った。思いの外怪我がひどく、これはもうだめかと思ったら、触れたくなった。あの日見た濡れた黒髪を、この手で。どうもこっそりと体を清めた後だったらしい彼女。おあつらえ向きに髪はおくれ毛をたらしていて、ジェシンの願いはかなった。手触りの良い、つややかな彼女の一部に触れ、涙にぬれた頬をかすめた手。もう死んでもいいと思ったあの時、それぐらい彼女を愛しく思っていたのだと自覚した。

 

 誰にも言えない。ジェシンは、ユニの日誌から抜き出した様々な出来事の裏にたくさん残る彼女への想いをぶつけたのだ。言えるものか。

 

 

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