㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
何か隠してる!とユニは見上げたまま目を眇めた。さっきまでジェシンには珍しく多弁だった真上にある唇はへの字に閉じられ、目線は合わない。王様にとらわれた時に知ったのなら、隠すことなど何もないはずなのだ。
「そんなもん・・・なんとなくわかったんだよ。」
「なんとなくってどんなの?そんなになよなよしてた、私?」
ユニの返しに、そんなことはねえ、とジェシンはうめいた。実際、体格的には確かにユニは小柄でひ弱そうな、少年のよう、と評される、男としては頼りない体つきだったが、女人としては背の高い方であったのが幸いし、性格の明るさや無邪気な元気さが少年っぽく見せて周囲に疑問を抱かせなかったのはジェシンも認めるところだ。ジェシンだって最初は何の疑問も持たなかった。ユニは嫌がらせにも立ち向かうし、顔に青あざを作るほどの喧嘩だって受けて立っていた。それに、新入り虐めの時に、国一の妓生チョソンの下着を彼女の詩付きで持ち帰ってきたという武勇伝をもって、ヨンハに『テムル(大物)』などというあだ名までつけられ、ついでにそのチョソンに惚れられた。何よりも、学問の面で秀でているのがいちばんの目くらましだったろう。儒学では女人が学問、学ぶことは薦められていないのだ。女人に必要なのは礼儀作法であり、家庭に尽くすつつましさであって、政や経を学ぶ必要などないのだ。女に学問はできない、その観念が、ユニを成均館で安泰に暮らさせた一番の要因だったろう。何しろユニは大層優秀な儒生だったのだから。
「ヨンハは最初っからうだうだと疑ってたぜ・・・。」
「ヨリム先輩はちょっと別だと思うの・・・最初っから私を抱きしめてみたり匂いを嗅いでみたりして、変だったし・・・。」
「あいつ、何してやがったんだ・・・。」
確かにヨンハはユニが成均館に入ってきたときから、あんな綺麗な男はいない、とジェシンに意味深に言っていた。いい加減に聴いていたその言葉が現実だと分かったあの時の衝撃を、ジェシンは鮮明に覚えている。だがさすがにユニに真相は言いたくないとヨンハの名を出したのに、あっさりと流されてしまった。
「サヨンがいつ知ったのか、を聞いてるのよ?」
じっと見上げてくる視線が痛い。ねえ、ねえ、と甘え声まで出し始めたユニ。これは今までもずっとだった。ユニはジェシンに甘えることを成均館の時に知ってしまった。強請れば大概のことは許してくれる心の広いお兄さんを、ジェシンはずっとやってきたから。そしてその甘えに弱いことを、ユニはよく知っている。
「て・・・」
て?と首をかしげるユニに、ジェシンはやけくそで怒鳴った。
「手射礼の時だ!」
ユニは目を丸くした後、首をかしげて考え、そしてさらに驚きの表情を浮かべて固まった。そんなの、ものすごく最初の頃じゃない!と。箇条書きの手元の紙の上でも、前から数えてすぐのところだ。
「え・・・え~・・・やっぱり下手だったから、弓が?」
「・・・下手は下手だが、お前は鍛錬して出来るようになっただろうが、ヨンハの方がよっぽど下手だ。」
「ええ・・・担いだ時に軽すぎた・・・?」
「お前がちびだなんて最初から分かってたから、軽いのなんか当たり前のことだったわ!」
「あ!担いだ時に、男の骨格じゃないって思ったの?!」
「ちびだと思ってたから、男の骨格云々なんぞ思いもしなかった!」
「ちびちび言わないでよサヨン!」
「ちびだろうが!」
さっきまで懐かしい思い出と、それにまつわる自分たちの想いの数々、ジェシンの言葉を惜しまないユニへの想いにほのかに色づいていた部屋の空気は霧散し、長子のいい言い合いが交わされたが、やけくそのように叫んだジェシンのせいで、今度は静まり返った。
「お前!享官庁で風呂使ってただろうが!たまたま・・・たまたまその日、見ちまったんだよ!お前が湯あみしてる・の・・・を・・・・よ・・・・・。」
最後は尻つぼみになった言葉を理解したユニは、今度は体ごとかちりと固まってしまった。