ある作家のネタ帳 その21 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「・・・私は一人で生きていくために、家を出たの。もうキム家にユンシクの姉ユニはいないの。嫁いではいないけれど、話題にも上らない姉娘、それも薹が立ちすぎているのですから、そういうお話には候補にもならないわ。そうなるようにしてきたのだし・・・。」

 

 「逆に言えば、お前が望むなら婚儀の話などどこからでも来るってことだ。大科に合格し出世間違いなしの南人の若手官吏、容姿が整って若い娘っ子からすれば文句のない婿殿になるキム・ユンシクの姉なら、器量望みの申し込みがあるだろうが。」

 

 だからいつまでも俺は心配なんだ、とジェシンがユニを見据える。先ほどまで不意と横を向いてそらしてた視線は、今は痛いほどユニを貫いていた。

 

 「けれどサヨン、私は多くを望んではならないの。キム家の再興のためとはいえ、王様や世間を謀り、勿論・・・サヨンたちのことだって騙してきたのよ。私とユンシクが今この世で普通の顔をして生きていられるのは、皆様の温情のおかげなの。私は十分幸せで、これ以上のことを望んでは罰が当たるの。」

 

 「お前・・・温情だけでお前たちが守られていたと思っているのか?」

 

 ジェシンに低い声で問われて、ユニはは、とうつむいた。そのしぐさに、ジェシンは確信をした。こいつは感じていたのだ、と。自分たちのユニへの特別な感情を、と。

 

 数年前なら、ジェシンもユニが自分たちとのそういう関係を望まない理由はわかるつもりでいた。それはジェシン達の親のことだ。朝廷の重臣であるソンジュンの父親やジェシンの父親、そして大商人であり、一台で両班の地位を買い取ってヨンハという官吏にまでなりうる息子を育てたヨンハの父。これらの世慣れた父親たちが怖かったはずだ。特にソンジュンの父親はある事件をきっかけにユニが性を偽って儒生に成り済ましていたことを知っていた。それを武器に王様と交渉したような男だ。その時点で、ユニは全く持ってすべてをいったん否定されたのだ。女であること、力のない家の娘で撮るに足らない存在であること、大罪を犯していること、すべてが脅しの対象となった。そんな時の権力者として立ちはだかった者たちが自分たちの父親なのだ。ユニがジェシン達の自分に対する慕情を感じていたとしても、逃げるのは当たり前だった。

 

 ジェシン達には、父親と立ち向かえるほどの力はなかったからだ。ただの若造で、父に庇護される、何の力もない存在だった。

 

 それは今のジェシンだから認め、言えることだ。ユニとユンシクが入れ替われることになった時、内心三人共焦った。少なくともジェシンは早まりそうになった。これでシクは娘に戻れる。これから家で娘らしく過ごすのか。会えなくなるのか。そんなことは許されない。傍に居させなければ。俺の妻にしなければ。そう思った。だが、ふたを開けてみれば、変わらない生活が出来る清での留学期間があり、娘姿を謳歌するユニを見ていることができ、仲間と穏やかに楽しそうに過ごす彼女に、もう少しこの温かな時間を、と目配せのように三人で意志を交換している間に、ユニは留学後の自分の処遇を決めてしまっていた。そう、若造が手も足も出ない間に、するりと一つ大人になってしまったのだ、ユニは。自分の来し方行く末を、自分で決めて行かねばならない、と勝手に。

 

 ジェシンは、勿論ソンジュンとヨンハも、未だそれぞれの家の当主ではない。だが、若手の出世頭として王宮での官吏としての仕事に成果を上げ、これまでの父のやり方にも、反発だけでなく認めざるを得ないところを知り、そしてそれぞれの家の本当の跡取りとして二つの脚で立った。婚儀もせっつかれているが、思うところあり、と突っぱね、それを認められてきた。ソンジュンに至っては、ユニが娘儒生だと父親に知られたときに、ついでにその気持ちまで知られている。今は父親の方が婚儀の話に及び腰だとも漏れ聞く。大科一位、異例の速さで地位を上げる息子に、父親も上から押さえつけることができないのだ。それはジェシンの家も同じで、安易に婚儀を決めてしまえば、それこそ妻となった娘が不幸なぐらいジェシンが見向きもしないだろうことを父親は恐れている。それぐらいジェシンも頑固に意志を貫いていた。

 

 「温情など、生易しい感情で、お前を守れやしなかった・・・分かってたよな、キム・ユニ。」

 

 ジェシンはずり、とユニにいざり寄った。

 

 

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