ある作家のネタ帳 その2 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 だってユンシクは知っている。ネタがないなんてことはない。姉ユニの手元には、何冊かに分けられた薄い冊子がある。それはユニが自ら綴じたもので、そこに満載のネタが溢れているはずなのだ。

 

 その冊子は、ユニが成均館にいる頃、ユンシクに伝えることを書き留めるために書き始めた、日々の記録、日記だ。

 

 誰と、どこで、何があったか。詳しく書かれている日もあれば、何日か飛んでいるときもある。そんなときはおそらく、平穏に講義と日々のありきたりの生活が回っていた時だったのだろう。ユニはユンシクのために講義中の博士の一言一言を必死に聞き取り、細い付箋に書き込んでは本にきれいに貼りつけ、それを与えてくれた。ユニから遅れること半月ほど、ユンシクは南山谷の小さな自室で、成均館の講義をまるで手に取るように自習し続けて今がある。ユンシクも猛勉強した。だが、その礎はユニがしっかりと支えてくれたおかげだと、ユンシクは深く深く心に刻んでいる。

 

 それだけでなく、ユニはユンシクと入れ替わった後、態度に齟齬が生じないようにと、日々の周囲の人との交流、成均館での行事など事細かに書き残していたのだ。誰かに見られたとしても、それはいわゆる日記、備忘録として認識されただろう。まるで業務の日誌のように淡々と綴られている成均館での出来事、人とのやり取りは、ユンシクがユニとユニの友人たちと共に清に赴いている一年ほどの間に、そっとユンシクに渡され、ユンシクはユニの怒涛の日々を追いながら、ユニの数年の人生を頭に叩き込んでいった。

 

 おかげでユンシクは、とにかくどうにかキム・ユンシクとしての人生を始めることができたのだ。本当に感謝している。そしてその日記は、ユニの大切な記録だからとユニの手元にほとんど戻した。まだ手元にあるのは、従事官時代のものだけだった。仕事で関わった人たちのこと、会話、褒められたこと注意されたこと、気を付けなければならないこと、などが詰め込まれており、念のためにしばらく持っておくことをユニに願って了承されていたのだ。

 

 だからユニの手元にはあるのだ。話を膨らませるために仕えるような人たちのことが書いてあるものが。今大評判をとっている続き物の話も、そこに書いてある人たちのことを、設定を変えて登場人物にしているのだから。

 

 「えっと・・・今のお話は、どのように終わるのですか?」

 

 「そうね。ここまでで、主人公の娘は何人もの求婚者を退けてきたでしょ?」

 

 「そうですね。でも最後はやはり誰かと結ばれる・・・という落着の仕方が、読者の方たちには喜ばれるんじゃないですか?」

 

 「それはそう思うの。だけどね、ここまでいいお話を蹴ってきた女の子なのよ。最高の・・・というかこの世に本当にいるの?みたいな人と出ないと納得してもらえないと思うの。だからね・・・。」

 

 ふふふ、とユニはほほ笑んだ。男装で、化粧すらしていなくて、男のユンシクとうり二つの容貌をしていても、ユニはやはり女人だった。妙齢を過ぎて、娘としては老嬢と言われる二十代半ばになってきているのに、少女のように愛らしく、けれど年齢と経験のおかげでにじみ出る色気が、微笑みを輝かせていた。

 

 実はこの話には参考にした物語がある、とユニは言っていた。読書好きで、それこそ字が書いてあれば何でも読むユニ。父が遺した膨大な蔵書は、禁書と言われる類のものまですべて読み切っていた。その中には諸外国のものも当然沢山あり、清やそれ以前の王朝のものから、西はもっと内陸の国、東は海を越えた国のものまであった。その上、ユニには甘いあまい先輩がいて、面白い読み物を見つけたら、ほい、と貸してくれたりする。そんな中にあった一つの物語の流れを使って話を膨らませ、登場人物を魅力的に描いたのが今の続き物の本。

 

 ユニがユンシクに出して見せた本は、訳してあるが簡略過ぎるぐらいの説話集みたいなもので、その中の一つを、ユニは指さした。

 

 

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