時を超えて 端折って話した夢の中身 ヨンハ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 可愛い後輩は菓子が大好きだ。菓子を買う余裕などなかっただろう少女時代と違い、今はヨンハがそれを与えてやれる。こればっかりはソンジュンやジェシンにはできない話だ。街に出歩いて買い食いなどしないだろう堅物のソンジュンと、甘いものより酒というジェシンには女子供の好きな者などわからないだろうし知るすべは本人に聞くしかない。ただ、本人に聞くことができない二人でもあるのだから、ヨンハの圧勝だった。

 

 ヨンハは雲従街を庭として育ったようなものだ。それに商売をしているから市場の屋台の人気の動向が自然に耳に入る。あの婆の屋台の蒸し饅頭が一番だとか、あそこの揚げ餅には水あめを絡ませてるだとか。寄り道して食ったこともあるし、年かさの下人が土産ですよう、と買ってくることもある。妓楼に入り浸るようになれば、甘いものを土産にねだる妓生に頼まれて新たな菓子の存在を知ることもあった。何しろ情報源は豊富なのだ。

 

 

 ≪山間の小国だ。鉱物の資源や薬草などは豊富だが、農作物をふんだんに採れるような耕地は広げにくい場所だった。気候も寒冷地に近いもの故、穀物も雑穀が主流であった。決して旨いものが溢れている場所ではない。だからこそ甘い実はごちそうだった。栗、柿、棗、柘榴。山ブドウや小さな黒ずんだ赤い皮のリンゴも甘酸っぱい。それらは大体そのまま口に入れていたのだが、やがて干したり煮たりして保存されるようになり、それを菓子に使うようになった。ひと手間かかるからこそ高価になり、庶民の口には入らない。裕福なヨンハの実家でもそれは変わらない。けれど、時に手に入ると、それは真っ先にユニに与えられた。父も、ヨンハも、最初は勿論進んで養女として受け入れたユニを、女児故、相手するのに少し腰が引けていたのだが、家に迎え入れて数日後、貰い物の干し柿の薄切りを食べたユニの満開の笑顔に虜になってしまったのが最初だったと記憶している。

 

 「第二夫人になっちまえば・・・そうそう宿下がりはゆるしてもらえないだろうなあ・・・。」

 

 王の後宮に入る直前の、本当に準備のためだけの宿下がりに、ヨンハはため息をつきながらユニを構っていた。ユニの小部屋には、王家からの結納品が飾られ、ユニは贈られた装飾品を身に着けてク家から嫁入りする。まもなくだ。

 

 二人の前には茶と菓子鉢が置いてあり、稗餅に黄粉をふんだんにまぶしてあった。ほらお食べ、とヨンハは行儀悪く手で掴み、ユニの口元に運んでやる。ユニは一口分のその餅を、大きな口を開けて食べさせてもらった。それが当たり前のように。

 

 その当たり前は、ユニがこの家を出れば、もうなくなってしまう。それを二人はよくわかっていた。分かっていて、口には決して出さなかった。出さなかったけれど。

 

 「私、このお餅が大好きなんですけれど、王妃様のお召し上がりものに見たことはないんです・・・食べちゃダメなのかしら・・・。」

 

 「分からないなあ・・・でも俺がお前への土産だと献上すれば、お前がこっそり食べればいいよ。」

 

 「でもこんなにおいしいのに。王妃様にも差し上げちゃダメかしら。」

 

 「それこそお聞きしてみな。寛大なお方なのだから、ちゃんとしたお答えを下さるよ。」

 

 「はい。じゃあ、食べてよければ、お兄様、届けてくださいね。」

 

 「おお!ものすごい極上品のように、きれいな箱に詰めて持っていくよ!」

 

 

 ヨンハはその後、約束通り折に触れて菓子を後宮に差し入れた。ユニは義兄が差し入れたものだからと毒見をし、そして王妃と共に甘味を楽しんでいると手紙を送ってきた。次を楽しみにしている、という甘えた文言がうれしくてうれしくて。

 

 けれど、後宮に入って、一度も宿下がりをせぬまま、義妹は帰らぬ人となった。そしてヨンハは、その忘れ形見の姫に菓子を贈る。その時は、必ず墓にも供え続けた。≫

 

 

 「テムル~~!トック爺がさっき来たんだけど、はちみつを固めたかけらをたくさん置いていったんだよ。ほれ、滋養もつくし、喉にもいい。」

 

 口にひとかけら放り込む。ひとなめ、ふた舐め、そして広がる笑顔。この日常の幸せを、ヨンハはいつだって守ってやりたいのだ。どんな時代でも、どんな関係でも。多分、次の時代の俺だってそう思うに違いない。

 

 それは確信だった。

 

 

 

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