㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「やってきたことの積み重ねだよ。」
「運が悪い?運に振り回されんじゃねえぞ。」
「周りを見ていれば分かるもんだぜ。」
成均館の時から、そして大科に受かって官吏として働いた短い時間の間、ユニは三人からいろいろな言葉を、態度を貰った。ユニの大事な友人先輩三人に共通するのは、何かを他人のせいにすることがない人たちだということだ。それは最初からそうだったわけではないと知っている。ソンジュンは生まれた時から当たり前のように派閥に与していなければならない人物だということに悩んでいたし、ジェシンは兄の不幸を派閥や父親のせいだと恨んできたと聞いた。ヨンハは自分の血筋に劣等感しかないと忸怩たる思いを漏らしたことがある。誰のせいでもない。けれど誰かや何かのせいにしなければやり過ごせないことなど皆何かしら持っている。けれどそれにこだわっては何もできない、進めない。どこかで吹っ切り、時にはその思いに囚われそうになりながらも、それでも自分の脚で立とうとしている彼らに、ユニは助けられ励まされていた。
夢の話は、ユニを含めた四人の中で、そうやって昇華したのだ。気にならないことはないが、今でないことにこだわって立ち止まることの方がおかしい、そう気づけたのは、四人でいたからだ、とユニは思う。
彼らは、と三人の子を産み、母となり、年をそれなりに重ねたユニにようやくわかることがある。
皆、皆、私を愛していてくれた。
それは男女の愛に他ならなかった。友人への情愛、後輩への情愛、仲間としての情愛ではない。男が女を愛する心を持ってくれていた。けれど、彼らは。
誰一人、自らユニに手を差し出したりはしなかった。
聞いた事はない。もしかしたら三人で何か話し合いがあったのかもしれない。阿吽の呼吸だったのかもしれない。そんなことはわからないけれど、三人はユニの気持ちを待ってくれた。ユニが自分が始めたことにけりをつけられるまで、時間がいくらかかるかわからないのに、それも含めてすべてを待ってくれた。
それぐらい彼らは、ユニのことを大切にしてくれたのだ。
一人の胸に飛び込んだ後も、残りの二人がユニを恨むなどという事はなく、さらに温かな昔なじみとしての親交を保ってくれている。婚儀を祝い、共に暮らした清での留学生活を楽しみ、そしてユニが産んだ子らを共に可愛がってくれる。それぞれが家庭を持っても変わらない。今彼らの仲間は他人には弟ユンシクなのだが、ユンシクも輪に入れながらも、やはりユニも変わらず仲間なのだ。それがどんなにありがたく、そして本当なら難しいことなのか、ユニにもようやく理解が及ぶようになった。
そして見つけたあの古い民話。
よみがえるあの夢を見ていた日々。輪廻などどうひっくり返っても分からないが、それでも自分たちに何か縁があるのなら、とユニは祈る。
いつ、どのように生まれたとしても。
夫が帰宅したという触れが聞こえた。ユニは立ち上がり、内棟の廊下に滑り出た。夫は実父に帰宅の挨拶をすれば、そのまままっすぐに自分のところに来る。必ず。仕事のことで一人で考えるために自室に戻る夜でも、必ずユニを抱きしめるために来るのだ。確かめに。ユニがそこにいることを。自分を愛していることを。若かったあの時のように。本当に俺か。俺でいいのか。そんな迷いが明確なのかどうかは知らない。けれど、ユニが自分の妻として在ることを、いつまでも喜んでくれる人。ユニは確かにこの人が好きだと確信してその腕の中に飛び込んだけれど、そのときよりもずっと、多分今日より明日、またこの人を好きになる。いつ、どのように生まれたとしても、再びあなたを選ぶ、そんな運命だとは言わない。私は今を生きて、今のあなたを愛しています。
時を超えて、出会う。その縁があるのならいつでも良い縁を。けれど私はたぶん、いつだって。
その時を生きます。懸命に。それが私。いつだって、私自身。