時を超えて その19 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「それで・・・いや、その前に・・・。」

 

 「キム・ユンシクは・・・その怪我が元で・・・?」

 

 「元で、じゃねえ、斬られたから死んだんだ。」

 

 

《その時、ユニはようやく二十歳だった。女児は一つにもならず、けれど健康な彼女は産褥期が終わると第二夫人としての日々に戻り、新王として忙しいソンジュンと王妃の支えになろうと過ごしていた。健やかに育つかわいらしい姫と、その姫が早く自分の遊び相手になるように毎日顔を見に来る世子がいる後宮は、とても華やかで楽しいところだった。王の護衛で後宮にも足を踏み入れるジェシンにも体感できるその歓びに満ちた空間が、あの日、一瞬で地獄のように暗闇になった。

 

 義妹とはいえ自分の身内なのに、後宮に入れないヨンハは、医師に必要な薬種を聞き出すようわめき、それを手に入れるために再び飛び出していった。ジェシンは呆然とする王を内官や侍女に世話するよう言いつけ、ユニを斬った男の元に向かった。すでにジェシンの部下によって尋問されていた男は、貴族ゆえに名を知るものがおり、それを聴いたジェシンは小隊を男の実家に向かわせた。縛り付けている男の胸倉を掴んで顔を突き合わせ、理由を言え、と叫ぶと、男は悔し気に顔をゆがめた。

 

 「俺が斬ったのは妾の方か?素直に王妃を斬らしてくれりゃあ、自分は怪我せずに済んだのになあ!」

 

 それを聴いてさんざんに殴りつけ、しばらくして引きずられてきた男の父親から、男が親族の娘のことで王妃を恨んでいたという話を聞きだした。再び小隊を今度はその娘の実家に向かわせると、そこは既にもぬけの殻になっていたのだ。

 

 国を抜けたか、と深追いを止め、ジェシンは王の指示を仰ごうとした。執務する建物にはおらず、向かったと聞いたのは後宮。ジェシンも向かうと、後宮の手前の低い門の前でうずくまるヨンハを見つけた。とりあえず探し出した薬種を渡し、足が動かなくなったのだ。入れてもらえないから会えない義妹ユニ。王の第二夫人として幸せに暮らしているはずだった。そう呟くヨンハに何を言えただろう。目の前に上がる血しぶきに対応できなかったのは自分なのだ。

 

 ジェシンは王の護衛なので後宮には入れる。足を進めると、ユニの部屋の前でたたずむソンジュンの姿があった。数人の供が庭先で項垂れている。着替えはしたらしく、浴びた血の跡はその衣服にはなかった。近づくと力なく振り向き、将軍、とつぶやく王に、ジェシンは膝をついた。守れなかったのだ、王を。王には傷一つついていないが、王の大切なものを守れなかったのだ。近衛の長の資格などない。ジェシンは素直にそう思っていた。だがそんなこと、王にはお見通しだった。

 

 「あなたは私を守り切った。私が何もできない間に、あなたは私を守り、周囲を確認し、そして不埒ものを取り押さえた。あなたより他に私を守り切れるものはいないだろう。」

 

 「しかし王様・・・。」

 

 言葉に詰まるジェシンの目の前で扉が開いた。侍女が一人出てきて、王の前にひれ伏した。どうか、と聞くソンジュンに、もう、と侍女が肩を震わせた。

 

 「もう・・・意識がおありになりません・・・血が・・・流れすぎているとお医師様が・・・大きな血脈が断ち切られているそうでございます・・・。」

 

 目をつぶるとその瞬間がよみがえる。切り下げられた剣がどこを切り裂いたのか、そしてけぶるように噴出した血しぶき。ジェシンはよく知っている。戦場に出る者だからこそ、そこが急所で致命的な箇所なのだと。今まで自分が、見なかったことにしていた事実だった。見たくなかった事実だったのだ。

 

 「夫人は・・・まだ血を流していると申すか?」

 

 「・・・止まらないのでございます・・・血の管をふさぐことは、お医師様でも無理だと・・・押さえておられますが・・・。」

 

 ソンジュンが侍女を押しやって部屋に入っていった。夫人、夫人、と呼びかける声、それがユニ、ユニ、と呼ぶ声に代わり、そして女たちのなく声が聞こえ始めた。私の血を移すことはできぬのか!と叫ぶ王ソンジュンの声に、さらに泣き声が大きくなる。そしてジェシンは。

 

 その場に入っていくことさえできなかったのだ。≫

 

 

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