メロディ その24 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 その週、曲は全部ジャズだった。マyスターがそんな気分だったらしい。ナット・キング・コールの『Love』から始まり、同じくナットの『Unforgettable』で終わる渋い構成で、バーはしっとりした雰囲気でその夜を終えた。

 

 特に『Unforgettable』は間奏が歌の出来を左右すると言えるぐらい、歌うように弾かねばならない。同じ歌詞を二回繰り返す形のこの歌は、一度目のフレーズを歌い終えた後、同じ長さ分間奏があり、もう一度ある歌に向かって和音で奏でる主旋律と、その合間に飾るアドリブの音とで盛り上げていかねばならないのだ。

 

 そして、それは技術的には勿論ピアニストの技量にかかっているのだが、感情的には。

 

 この歌を、別れた恋人に対する歌だとか、思い出の恋人に向けた歌だと思っている人が多い。実際そうとってもおかしくないし、本当にそうかもしれない。けれどジェシンはこの歌詞を読み返して、そんな事はない、と思いながら間奏を弾いている。

 

 忘れられない人、君のことだよ

 傍に居たっていなくったって、ずっと忘れられるわけはないんだ

 胸にまつわりつくラブソングのように

 君のことをずっと考えている

 君以上の人はこれまでいなかったんだ

 

 今も、これからも、そう歌うこの歌。忘れられないだけで、ずっと生き続けるのだ、胸の中に、もしかしたら現実に。現実がいい。傍でずっと歌っていてほしい。今この瞬間を忘れない。これからも。ジェシンのそんな思いがピアノの音に乗り移り、美しくフロアに響き渡る。

 

 

 そんないい夜だったのだが、その日は店を閉めるまで二人は残り、マスターと三人でタブレットを見なければならなかった。ユニに防犯カメラの画像を確認してもらうためだ。

 

 マスターが腹ごしらえ、といつもは絶対にピザ以外作らないカウンター内のガスレンジで、大盛りのパスタを作ってくれた。ベーコンときのこ、オリーブオイルとガーリックと黒コショウの香りを効かせて、最後にパルメザンチーズを一振り。おしゃれっぽく見せてるけど、ベーコンもキノコも今日のピザの具の残りだと二人は知っている。けれど、おいしくって、山分けにして二人で食べ切った。

 

 タブレットに映る男をユニはじっと見た。目をそむけはしなかった。マスターとジェシンがユニのことを心配しているのをよく知っているからだ。本来は自分に降りかかっていることなのに、二人の方が懸命に対処を考えてくれている、そのことが申し訳ないけれども心強くてうれしい、とユニはジェシンに言ったのだ。だから、私も覚悟を決めます、とユニは今夜、画像を見ることを承知した。

 

 パスタを食べながら馬鹿話をしてとにかく緊張をほぐしはしたのだ。何しろバー以外で会った仲だから、とマスターが笑うので、ユニの彼氏疑惑が起こっていることをジェシンはマスターに言ってやったのだ。マスターは手を叩いて笑い、ユニは、うわさ話の的になるのは私だけなのに、と膨れた。アジュマたちというのはおせっかいで、特にあの界隈に住んで長いユニ一家とご近所は付き合いもよく、早くお嫁に行かないと、とうるさいのだそうだ。

 

 そんな話をしても、やはり画像を見るとなるとユニの雰囲気は重くなった。何しろ自分の知っている人、特に仕事に関りのある人が手紙を送ったりユニのものをとったりしているかもしれないのだ。ユニの困惑は当たり前でもある。

 

 ユニの話を聞いて、ユニの会社内の人間ではないのでは、とジェシンは感じていた。ユニの勤める漢方薬の会社は小さく古く、ユニは一番若い社員だという。営業だという男性社員たちはみな40代以上で家庭持ち。忙しくて走り回っているのだという。社長だって自らが営業しているようなもので、古い付き合いの薬局などは、社長が担当しているぐらいなのだそうだ。

 

 ユニが画像を真剣に見る。どうしても陰の部分が多くなる画像を、何日か分見て、ユニはほう、と息をついた。

 

 「分からなかった?」

 

 心配そうに聞くマスターに、ユニは首を振った。

 

 「多分、分かりました。」

 

 

 出入りの、コピー機やデスクトップパソコンなどのリース会社の営業兼メンテナンス担当の人に見える、とユニは断言したのだ。

 

 

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