メロディ その14 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「・・・」

 

 無言のジェシンに好きなだけユニ当ての手紙を見せる時間を与えてから、つまりマスターの接客の手が空いたとき。

 

 「うわ・・・それは知らなかった。」

 

 「開けてないのがほとんどですね。」

 

 「うん。気持ち悪いし。」

 

 ジェシンが手に持っているのはユニの写真だった。隠し撮りなのは明らか。ユニがカメラを意識した姿勢でも視線でもないし、ちょっと俯いたり、斜め後ろからだったり、というアングルが多い。そして遠目。大した撮影機器、つまり性能のいいデジカメは持っていないのはわかる。そんなもので本格的に物陰から何かを撮影していたら、すぐに誰かに通報される。誰もかれもが使っていて不思議じゃないスマホでの撮影だろう。

 

 「写真はさ、最初の頃のは開けてみてたから、時々入ってたよ。」

 

 「歌ってる時のですか?」

 

 「いや。店の外にいるとき。帰る時と・・・来た時のもあったかな・・・。」

 

 ジェシンは写真をバラバラにはしていなかった。入っていた封筒にきちんと戻して、元通りにしていた。時系列が混じってはいけないから。マスターはありがたいことに、店の郵便受けに直接投函されるらしいその封筒の隅に日付を書いてくれていた。妙なところがマメな人だ、とジェシンは感心したが。

 だから初期の頃のはすぐに分かった。最初の頃は日付を入れることは思いつかなかったのだろう。日付は書いてあったが?マークがついていた。後に日付をつけ始めたときに、どうにか思い出して大体の日付を書いたというところか。

 

 初期は毎日は手紙は入っていなかったらしく、日付も飛んでいた。写真も探したところ、一か月で四枚、といったところだった。マスターの言った通り、見慣れた店の扉に向かって歩くユニの姿、横からとったのだろう。そして扉を開けてうん、と伸びをしている姿。扉の向こうに向かって手を振る後姿、歩き去る後姿。

 

 「ここで気持ち悪がってほしかったですね。」

 

 「ユニちゃんは気持ち悪がってたよ。だから俺がずっと預かってるんだってば。」

 

 「それからこれは・・・もう警察もんですよ。」

 

 「そうだよねえ・・・怖いよね・・・。」

 

 写真を同封する頻度は増えていき、一か月ほど前からは毎日ユニの写真が入り、この一週間はもっとひどく、封筒が閉まるぎりぎりの厚さまで入れてきている。何枚か並べて、ジェシンは眉をひそめた。

 

 「ここ・・・どこですか?」

 

 明らかに店界隈とは異なる場所でのユニの写真があった。マスターは初めて見るらしく目を眇めた。最近は週に一回だけ封を開いて中を確かめるだけになっていたらしい。見たくないのはマスターも同じだなのだ。

 

 「昼間、だねえ、朝かなあ?ユニちゃん、仕事に行く格好だよねえ。」

 

 「・・・ユニさんのここ以外の生活圏を知っているという事か・・・。」

 

 「えっ?!家?!でもユニちゃんのおうちはこんなにみっしりと建物がある場所じゃあないよ。小さいけれど住宅ばっかりの所。」

 

 写真はユニをズームしているから背景がわかりにくいが、雑居ビルのような建物にしか見えない。その写真の時の手紙を読んでみるが、今日も美しい、あなたは素晴らしい女性です、などとユニを賛美する言葉が並んでいるだけで、どこで見たなどとは書いていなかった。

 

 「警察ね・・・相談しなかったことも、ないんだけどねえ・・・。」

 

 「実害は、って言われました?」

 

 「言われた。手紙のことを話して見せもしたんだよ。だけどさ・・・何か困ったことが起こればその時に、本人さんじゃないですし、って。」

 

 「マスター一人で行ったんですか?」

 

 「ユニちゃんが嫌がったからさ。ユニちゃんが一番怖がってるのにね。」

 

 ジェシン君一度ユニちゃんと話してみてよ、と言われて、ジェシンはとりあえず頷くと、もう一度写真を見返した。そしてこのバー界隈でない背景の写真をもう何枚か見つけ、じっくりと観察し、それから一枚をティッシュに包むとポケットに入れた。

 

 「そだ、今週の曲さ、一曲保留にしてたじゃん。昨日久々にこれ映画で聞いてさあ・・・。お願いできる?」

 

 他の客が来たので話をそらしたマスターに頷いて、マスターが紙ナプキンに書いてよこした曲名を眺める。

 

 『Can’t Take My Eye off You』

 

 スマホで検索してイヤホンに流したそのメロディは、ジェシンもよく巷で聞くものだった。

 

 

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