メロディ その6 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「助かったよ~大成功だったねえ!」

 

 マスターが皿を乾燥機に入れながら笑った。ジェシンはご苦労さん、と一杯酒をごちそうになっているところで、ユニはマスターの隣でグラスを拭き上げていた。

 

 このバーはあまり遅い時間までやらないのだ。マスター一人で経営しているから。客もそれをよく知っていて、金曜日などはユニの歌が終わると潮が引くように皆帰っていった。ユニが着替え、ジェシンと一緒にスタジオの戸締りを確認してバーに降りてきたときには、もうマスターが閉店の札を扉に掛けていた。

 

 「アジョシ、お悔やみに間に合ったかしら・・・。」

 

 「そうだねえ、ソウルからはちょっと遠かったしねえ。でもお亡くなりになってすぐの知らせだろうから、大丈夫だよ。」

 

 それでも気になるのか、マスターはスマホを後ろポケットから出して指を操った。お、メールが来てる、アジョシ、lineしないんだよね、とぶつぶつ言いながら画面を操作した。

 

 「何々・・・『今日は突然休みを頂いて申し訳ありませんでした。こちらに着いたときには、もう葬儀場に父は運ばれていて、葬儀の段取りも近所の方が協力して決めてくれていました。ただ母が哀れなほど混乱していまして、しばらくこちらで後始末をしなければならないかと思います。葬儀は明日の昼ですので、またご連絡差し上げますが、とりあえず来週も休ませてください。ユニちゃんにも迷惑かけて申し訳ないとお伝えください』・・・そりゃそうだよなあ・・・。」

 

 ユニとジェシンに聞こえるように読み上げたマスターは、仕方がないねえ、とあっさり笑った。

 

 「ユニちゃん、どうする?しばらく休演する?俺さ、このバーをライブ演奏で有名にしたいわけじゃなくって、本当に俺の趣味でやってもらっているだけだから、人を替えるつもりあんまりないんだよね・・・今日はさ、ジェシン君がうまい具合にはまってくれたから楽しいステージになったけど・・・ジェシン君って他の仕事してるっしょ?」

 

 急に振られたジェシンはうなずいた。

 

 「まあユニちゃんも普段は会社の事務員さんだけどね。今の時代、コンプライアンスがどうたらって厳しいんでしょ?」

 

 「ユニさんの会社はいいんですか?」

 

 ジェシンが聞くと、ユニはにこにこと笑っている。

 

 「小さな製薬会社なの。漢方薬を扱ってるんだけれど、家族経営みたいな会社だからあんまり厳しくなくて。私が学生時代から趣味で歌ってるのも知ってて、知り合いの紹介でマスターの店で歌わないかって言われたんですけど、って言ったら、いいよいいよ、って。」

 

 俺は、とジェシンは少し考えた。ジェシンはそこそこ名の通った総合商社の法務部に勤務している。実は国家資格も持っていて、本来は検事や裁判官、弁護士になるのだが、将来企業関係の弁護士になろうと思っていることもあり、実務を学ぼうと一般就職をしたのだ。当然持っている資格は優遇の対象だったし、就職先の会社も実は知り合いの伝手があるところ。会社の規定をちょっとばかり思い出して、まあ趣味の範囲だと言えばいいか、バンド活動やら絵描きをしている奴もいるしな、と無理やり自分を納得させた。

 

 要は、報酬をもらわなければいいのだ。

 

 「来週ぐらいは付き合えますよ。趣味だって言えばいいし。元々俺の特技はピアノだって採用時にも堂々と書いてますし。」

 

 「そうかい?!どうするね、ユニちゃん!俺は今日の演奏を聴いて息ぴったりのユニットだと思ったけどね!」

 

 ふふ、と笑ったユニは、そうね、とジェシンを見た。

 

 「私はとっても・・・気持ちよかったわ。体の芯がびりびりした。」

 

 ジェシンはそのいたずらな瞳を受けて立った。

 

 「そうですね・・・俺も久しぶりに指が走った・・・次の音が楽しみで。」

 

 二人の応酬を手をもみながら聞いていたマスターは、エッチだねえ、と言葉とは逆にからりと笑って言った。

 

 「じゃ、来週も頼むよ。曲はさ、このスコア、全部持って帰っといて。何するかはまた連絡するからさ!」

 

 ファイルをドン、と渡されて、ジェシンはその分厚さに目を丸くしたけれど、スマホを出して連絡先を聴こうとしているマスターとユニに気付き、まあいいか、とにやりと笑って、自分の胸ポケットからスマホを取り出して振って見せた。

 

 

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