『花四箱』と仲間たち その42 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「あなたがその金庫の鍵を持っているのはおかしい話ですね。」

 

 無表情のまま言葉を投げてくるイ・ソンジュンが黒々と大きな影にしか見えなくて、男は怯え、体が固まって動けなくなった。

 

 「訴えがありましてね。急激に科挙の合格者を多く出し始めた書院が存在する、と。国のことを想えば、優秀な人材を育ててくださることは大変ありがたい話なのですが、ある時期から急に合格率が上がりすぎて、何かおかしい、という話が聞こえてきたのですよ。調べてみましたらね、大科に受かり、ここで働いているその書院の出身者がまあ・・・本当に大科合格者か、と思うほど仕事ができない。あなたぐらいですよ、王様のお役に立っているのは・・・。いや、立っていた、というべきでしょうね、今からは。」

 

 ばれている、発覚している、俺がしたことが。

 

 分かっていたのだ。自分が行っていることは不正であると。けれど、周囲を見て、自分一人の力ではどうしたって出世の糸口さえ見つからないこの王宮で、くすぶり続ける自分にも飽き飽きしていた。金さえあれば、と何度も思った。生活も楽になる、出世もできる。偉くなることの満足と、生活の満足。どちらにも飢えていた男にとって、その入り口となる金儲けへの誘いは甘い水だった。ふらふらと意志もなくうなずいたのと同じだ。分かっていても、甘い話は良いことだけではないと知っていても、足は止まらなかったのだ。親や家の金で、同じような頭の出来具合の同僚が、引き立てられて地位を上げるそんな場所。実力が物を言うのは大科の結果発表の時ぐらいだ。そこでさえ成績は下位だったのに、さらにそこから金の多寡によって出世の速さまで違ってしまう。物を言うのは金と縁故。そんな場所王宮で自分が上っていくには、稼ぐ手段が必要だったのだ。

 

 けれど知っていた。自分がすることは不正であると。だから上手く隠していたのに。自覚しているからこそ、上手く立ち回ったのに。

 

 視線がうろつくのをソンジュンは見逃さなかった。逃げる隙を、本能的に男は探っていた。出入り口はソンジュンが立っている扉しかない。そのわきをかいくぐってでも逃げようというのか。この男は、俺が何もしないで一人でここにいるとでも思っているのだろうか。

 

 じりじりと後ずさり、また横に移動し、と小さな動きを見せる男に、ソンジュンは呆れた。こんな茶番は早く終わらせたいのだが。ヨリム先輩、遅くありませんか、ご登場が。まあ、ご登場が間に合わなくても、俺が取り押さえるし、外には三人ほど連れてきていますけど。

 

 そう思った時、背後の空気が変わった。大勢の足音も聞こえる。ああ、ご登場だ。

 

 「ご観念なさい。あなたのしたことは、すでに一番上のお方にまで知られていることですから。」

 

 この国のどこにも、あなたの逃げ場はないんですよ。

 

 ソンジュンはそう言って体を開いた。全開の扉が男の目に入る。そこを通り抜ければいい。通り抜けて立ち止まらずに王宮の門を抜けてしまえ。走り続ければいい。逃げ切って、金箱をもって、遠くへ遠くへ。

 

 そう思った男は見た。いつの間にかイ・ソンジュンは手を前に組み、頭を垂れていた。ぽっかりと開いた扉。その扉の向こうから、かつ、かつ、と濡れ縁を上がってくる足音。ざり、ざり、と大勢の者が砂利を踏みしめる音。こちらでございます、と扉の外側で頭を垂れている男の頭が見えた。ク・ヨンハだ。男が欲しくてたまらない金をたくさん持っている奴。花の四人衆としてもてはやされる、いつも日の当たるところにいるやつ。なぜあいつが。

 

 「ク・ヨンハ・・・こやつか、国の重大事項、大科を穢したというのは。」

 

 「はい、王様。さようでございます。」

 

 「イ・ソンジュン。何故捕らえておらぬ。」

 

 「王様、この者、すでに逃れる気力は・・・ございません故。」

 

 その通りだった。王様が目の前におられると理解した瞬間。

 

 男はその場に崩れ落ち、目からすべての光が消えていたのだ。

 

 

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