『花四箱』と仲間たち その31 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「お忙しそうですね。」

 

 急にかけられた声に、びくりと肩を揺らした男が振り向いた。そこには扉を音もなく開けただろう、イ・ソンジュンという官吏が立ってほほ笑んでいた。片手に書類の束を抱えている。まもなくどこぞの副官に上がり、令監と呼ばれる地位に上るだろうと噂されているこの若い官吏を、男はどこか現実の人ではないようにいつも思っている。

 

 男は地方からようよう大科に受かり、王宮の官吏となった。地元の書院では10年に一人と言われる秀才としてもてはやされた男も、大科の成績は下から数えた方が早かった。大科の席次はそのまま官吏としての地位に反映され、同時に受かった者の中では最初から三階級も差がついていた。仕事を始めてみれば、その能力の差というものはまた出世に響く。男は学問と仕事との落差になかなかなれることが出来ず、やはり世間に慣れている者より仕事になじめなかった。地方出身者も多いはずなのに、その出身地から『田舎者』だと扱われるのも、男の態度をますます卑屈にした。見渡してみれば、同じような卑屈さをもったものは定数いて、王宮の官吏という、外から見れば輝かしい立場にいるように見える者の中にも優劣が強烈に存在するのだと、男は身をもって感じていた。

 

 都暮らしは金もかかった。俸禄は十分にあるが、一軒小さな家を借り、下働きの下女を通いで雇うと生活の金は馬鹿にはならなかった。物価も高かった。食い物もしかり。また、官吏として着る官服も自前だったし、周囲から浮かない生地で作れば値も張った。それでも贅沢しなければ十分に暮らしてはいけたし、官吏という立場上、部署によっては、『お気持ち』という臨時の収入もあって、なんだかんだともてなされる立場になった男は、もっともっとと欲が湧くのを止められなかったのだ。

 

 もっとちやほやされたい。もっと懐が潤う部署に行きたい。そのためには二つ道がある。一つは上の者、上司や派閥の力のある者、一番は王様に気に入られることだった。それには目立つ仕事ぶり、仕事に優秀さを見せねばならない。そしてもう一つが。

 

 賄賂だ。

 

 出世して懐により多くの金を入れるために、逆に金が必要になるのだ。気に入られたい上官にご挨拶と称して金の包を、もしくはその上官の好む物の最高品を用意して贈る。そうやって目をかけてもらうように活動している官吏は多い。出世のために親戚に借金までして金を作り、上に阿るのだ。優秀なはずの官吏とて、全員がその実力で出世できるわけもなく、大科も受けていないが、下級の官吏として親の縁故で入っていたものが、いつの間にかそこそこの地位に上がっていることもあるのは、この賄賂という制度のせいだ。男は、自分が地味であり、仕事もその他大勢と同じぐらいしかできないことを、王宮に入ってからひしひしと実感していたため、第一の道はすっぱりと諦めていた。

 

 金が要る。しかし男には借りる知り合いや親せきは近くにいなかった。皆地元にいる。貧しくはないが大富豪でもない。男の出世を喜び、もろ手を挙げて送り出してくれた実家に言うほど金がないのは知っていたから、頼めなかった。それに男は次男だ。もう実家は長男、男の兄が当主となっている。兄は学問が男ほど出来るわけでもなく、男は常に兄よりも自分が上だと思って生きてきた。生まれる順を間違えたのだと思っていた。だからこそそんな兄に頼りたくはなかったのだ。

 

 少々の袖の下を手に入れても、全く増えない蓄えにため息をついていた頃、成均館で評判だった四人衆と呼ばれる若者たちが大科を突破してきた。彼らは瞬く間に男を追い越し、清に特別に留学すら許されて、輝かしく王宮に存在している。羨むことすらできないほどの差。その中でも、大科壮元を誇り、その成績通りの仕事ぶりを見せるイ・ソンジュンが今、目の前にいる。

 

 こいつらが合格してきたとき、ぐらいだったよな。故郷の恩師が連絡を取ってきたのが・・・。

 

 男に金を手に入れる手立てを提案してきたのは、何と彼を育てた書院の恩師だったのだ。

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村