㊟フォロワー様500名記念リクエスト。
成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「若様よう!この女、楼の妓生によう、男から金をできるだけ搾り取れって教えてんだよ。現にこいつがよ。」
そう言って後ろから一人の男を引きずり出した。三人手下を連れてきていると思っていたのは間違いで、もう一人隠れていたようだ。
「ここのよう、ファンっていう妓生に身ぐるみはがされたかわいそ~な男だよ。流れ流れて今うちにいるんだけどよ。元は小さくても立派に商ってた乾物屋の息子だってのに、ファンに入れあげて店の金もつぎ込んで、二親は小さな借家で寝たきりだって。会いに来ても金がねえから入れてもらえなくてよ、ちょっとばかり金を返してもらいたいって言いに来ただけなのによう。かわいそうだろ。代わりに俺が、昔なじみの若女将にちょっと話をつけてやろうってことなんだよ若様よう。怪我したくなきゃ、引っ込んでな。」
べらべらとよく回る口でまくし立てた男を汚らしそうににらんだ若女将は、はああ、と大きくため息をついた。それを聞いて男とチンピラどもはにやにやと顔をゆがめた。いうことを聞くと思ったのだろう。
だが、若女将は。
「はは、はははははっ!ほほほほほほほほほほ・・・・!!」
と高笑いし始め、あら失礼、と小さな扇子を出して口元を隠し、さらに笑った。
「な・・・何嗤ってるんだ!?」
「あははは!これが笑わずにいられるかっていうのよ・・・。あ~あ・・・。」
笑みを顔に残したままで若女将は男を見下ろした。
「こんなバカな男に一時でも惚れてた自分が恥ずかしいわ。若かったとは言っても、もう少し見る目があればねえ。」
そういう若女将の嘆息の途中で、二階からガタガタと物音がし、言い争う声が聞こえてきた。
お前の名じゃないか、何、俺を騙してたのか?若様若様そんなことございませんわ、何かの間違いなんですって。でもお前は男から金を搾り取って店を潰したと。そんなのその人が商売が下手だからですって!
「ファンを連れといで。」
落ち着き払った表情で男衆に命じた若女将。その動じない様子に、蛇柄の男は不審そうな顔になった。ファンに金を搾り取られたという男は、落ち着かない様子できょろきょろとしている。
「へえ。お前、ますます肝が据わったんだなあ。あの頃からきつい女だとは思っていたけどよ。」
嫌みのように言う蛇柄の男に、若女将はにっこりと笑って見せた。
「ほめてもらったことにしときますよ。」
と若女将は動じない。
「若女将様、お客様は・・・。」
ああ、と若女将はうなずいた。
「ク商団様のお座敷にお連れして。お知り合いが来ておられるから、そこでお待ちいただけるはずだから。」
ユンシクはそのやり取りを隅の方で聞いていて、ああ、僕の知らないところでいろいろ段取りができてるんだなあ、と感心していた。そんなことだろうとは思っていたけれど。トック爺の連れていた客主従を見て。何も叫ばなかった自分をほめてもらいたいぐらいだ。
背後から肩を叩かれてユンシクは振り向いた。思っていた通り、トック爺が立っていた。その向こうにトック爺が連れていたク家の下人らしき男たちが、表玄関に消えていくのが見える。
「外からうちのに固めさせましたんで。こっち側は楼の男衆がおりますでしょうから、あいつらを逃がすことなんかありはしません。ユンシク様はこちらに。」
お前も一緒に居たらいい、と新人妓生もユンシクに付き添わせて、宴が行われていたと思しき一階の座敷に通ると、そこには仏頂面で腕を組む客主従の姿。
おどおどとユンシクを見上げる新人妓生に、大丈夫、知り合いだ、と囁いてやり、ユンシクは声をかけた。
「ドヒャン兄上。ご心痛、お察しします。」
仏頂面を見事に泣き顔に変えた、ちょっとばかり親父化が進んだドヒャンが跳ねるように立ち上がってユンシクに突進した。
「テムル~~!!テムル~~!!悪かった~!本当に悪かった~~!!」
「痛い!痛いよ~兄上~~!!」
お~ん!と泣き声を上げるドヒャンは、ぎゅうぎゅうとユンシクを抱きしめて放してくれなかった。