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成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
梅月楼に最近新たななじみの客が来るようになった。ある商団が接待を行った時、同行していた若い両班が一人の妓生を気に入ったのだ。まだ妓生になりたてて芸もたいしてできず、客もこれからという彼女についたその青年両班は大層きれいな若者で、先輩妓生の嫉妬をかったが、若女将はそれを抑え込んだ。
「ホント、生意気なの・・・ろくに客の相手もできないくせに、その席で一番いい男をかっさらっていったんですよ。」
緋色の床の中で愚痴を言う妓生を、よしよしとなだめるように背を撫でていたのはドヒャンの息子だ。すでに一戦交えたあとだが、若い、そう、まだ19歳の青年はまだまだ元気だ。もう一回ぐらい付き合ってもらって満足したい。だから妓生のご機嫌を取る。この時点で客と妓生の立場が逆転しているようなものだが、若く経験の少ない青年にはそれが分からない。客なのに接待する側の機嫌をうかがうようになったらおしまいだ。袖を通しているだけで腰ひもも結んでいないペラペラの絹の単衣を纏った背中を、ことさら優しくなでて話を聞いてやる。かわいそうに、俺がすぐに出世して身請けしてやろうなあ、と思うのだ。必死に勉強をして受かった小科。入ることのできた成均館ではさらに厳しい講義が待っていた。周りは優秀な儒生ばかりに見えた。そんなとき、同じ派閥の先輩に連れてこられたこの梅月楼。隣についてくれたこの妓生は自分と同じ年だった。随分大人っぽく見えたのは、この娘がすでに働いていることと男を知っていることだからだろう。美しく、自分だけにほほ笑む彼女に、母親から勉強勉強と言われて育ってきた彼は陥落した。同年代の娘と話すことなどなかったのだ。婚約者はいるが、10歳ほど年下なのでまだ子供。婚儀を挙げるにしても、数年先。そんな禁欲生活を送っているような彼にとって、目の前の花は甘い毒のように体に頭に回ったのだ。
でも、床の中で他の男のことを話されるのは少々納得がいかない。それが世間話でもだ。その上その男の容姿をほめているのだから。アン家の長男で、勉強は熱心にさせられたが、他は大事に大事に育てられた箱入り息子だったのだ。わがままな面は当然持っていて、自分のものになっていると勘違いしているこの妓生に対しても独占欲は大いにある。
「そんなにいい男なのかい・・・俺よりも・・・?」
少しとげとげしい声音に、客商売をしている妓生は事情を把握するのが早かった。うふ、と笑って向き直り、若者の胸にそっとしなだれかかる。
「見た目はね・・・でもあまりいいご身分でもなさそうですし、アン様の方が絶対にお偉くなるわ・・・成均館の儒生様ですもの。私の自慢の・・・。」
その先は言わない。たっぷりいろんな余韻をにじませて勝手に想像させるのだ。そして彼は勝手に想像した。そうだね、俺の方がきっと偉くなる、期待してくれてるんだ、やっぱり俺に惚れてるんだな、そんな風に自分に都合よく。
一晩妓生を買う金が、また彼の懐から出て行った。
隣の部屋でその睦言に耳をすませているのはユンシクだった。同じように敷かれている緋色の布団には、敵方のはずの妓生が熟睡している。一応ユンシクも単衣一枚の姿だが、何も、そう何もしていない。
ヨンハとこの件について話をしたところ、すぐにヨンハは動いた。早い方がいい、ずぶずぶとはまるとだめだ、と言って、トック爺を呼び出した。俺は顔が売れてるから、と仕掛けをするのはユンシクの役目になったのも、ヨンハとトック爺がどんどん勝手に話を進めたからだ。だが、ドヒャンはユンシクに助けを求めてきたのだ。ユンシクは自分が動くことには全くの異論はないのだ。率先してやらねばとすら思っている。ただ、あまりにも知らない世界の話なので、ヨンハとトック爺に言われるがまま流されるしかないだけで。
あの壮行会という宴で、ユンシクを見て心の底からの慈愛を目いっぱい表してくれたドヒャンに、成均館で姉ユニが彼からもらった優しさを、これからも続く友情と共にお返しをしたい、そう心の底から思っていたから。