『花四箱』と仲間たち その8 | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ソンジュンも忙しかった。ジェシンを派遣してもらうために、上司である判書に談判し、ことが終わるまで他言しないことを約束させた。相手は老論だ。同派閥の中で頻繁に行われる婚姻等を通じて、どこの誰が縁戚かわからない。判書になるぐらいの者はそこそこ落ち着いた年齢の者が多いため、万が一罪に問われそうなのが親戚であっても顔色に出さず、裏から手を回して証拠を隠滅させたり逃がしたりさせることもない事はなかった。数回派遣された暗行御史で、ソンジュンはそういう場面に少なからず遭遇していた。連座が適応されることの多いこの国の裁きで、自衛するために皆必死なのだ。

 

 「私はあなただけにこの話をしました。ということはどこかで漏れるとその原因はあなただということです。これは関わる娘たちのこれからの人生のために、できるだけ極秘に捕縛し、極秘に処罰する必要があります。」

 

 ご協力に感謝いたします、と念押しして、ソンジュンは他にも根回しに回った。

 

 本来、このような罪人は、捕縛された後も裁かれた後も衆目に晒し、それこそ石を投げられたり罵倒されたりという辱めを受けさせる。今回は特に、両班の男が権力に胡坐をかいて平民の娘を不幸にしたことで、民衆の憎しみはそれはそれは募るだろう。

 

 だが、今、現在男の餌食になっている少女がいる。狙われている少女がいる。人生を諦めて今の境遇に甘んじるしかないかつての少女たちがいる。人生を捨てた娘もいるのだ。

 

 二人、この世のものではない。ジニは惰性であっても生きた。自分の体も心も投げやりに、だが生きていた。二人の娘はこの世のものではないのだ。ウタクによれば、二人とも自死だったという。一人は首をくくり、一人は川に身を投げた。ジニと同じだ。囲っていた隠居が死んで追われたのだ、住んでいた隠居所を。罵倒され、さげすまれ、これからの当ても何もなく、選んだ道がそれだった。ジニが特別強いわけではない。生きていたが、死んでもいい生き方だった。自分を顧みない、投げやりな。

 

 憤りは一人の娘の過去を思い出させる。彼女は身売り寸前の自分のみを助け、生きてきた。それは自分のためでなく家族のためだった。自分が売られて少しばかり金が手に入ったとしても、病に床に臥せる弟、目を悪くした母の世話は誰もできない。すぐに二人は立ち行かなくなる。彼女はどうしても生きて家に居なければならなかった。諦めることなく立ち向かった彼女は、多分特別なのだ。誰にもできることではない。実際、あの男の餌食になった娘たちだって、親がいるのだ。抵抗もできたはずだ。けれど身分の違いというのは現然たる壁で、何もできなかった。そこに弱いと批判するのは簡単だ。大の大人でも恐ろしいものには身が竦むのだ。太刀打ちする気力も湧かないのだ。それを一人でやり遂げたソンジュンの知る一人の娘。彼女がどこかで負けていたら、と今回のウタクの訴えに背筋が寒くなる。

 

 仕事中のヨンハを呼び出し、一つ二つ頼みごとをしてからソンジュンは身を翻した。ジェシンを見送った後なので、すでに夜になっていた。時刻を見計らい、王様の執務室に向かう。途中で内官の一人を捕まえ、筆頭内官を呼んでもらった。夜中でもいい、王様にお目通りしたい、と頼み自分の執務室に戻る。ジェシンと同様、ソンジュンは既にある庁の副官だったから部屋があるのだ。

 

 夜中過ぎ、呼び出しはかかった。ソンジュンは昼と変わらない端正な姿で王宮を歩く。人の少なくなった時刻、だが警護をする武官、王族の世話をして夜も働く女官たちは彼を眩しそうに見ていた。そしてそのきちんとした振る舞いは、王様の気に入るところだとソンジュンは重々承知していた。

 

 仕事もきちんと成果を上げるのは当たり前。仕事の信用と人柄の信用。しょっちゅうお目にかかることのできない王様に対して、信用を高めるのはその士太夫ぶりだと、ソンジュンは今やよく理解していた。それだけ大人になっていたのだ。

 

 その信用をもって、ソンジュンはこの件の全権を王様から取り付けようとしているのだ。

 

 

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