㊟フォロワー様500名記念リクエスト。
成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
成均館という儒学校は、国が作ったものであり、国中の優秀な儒生の集うところである。当然、その優秀さはいずれ国のために働かせる期待をもたれるが、そこにいる全員が王宮で働く官吏となるための大科に受かることはない。むしろ、大科に受かることの方が難しい。合格者人数も限られているし、毎年行われるものでもない。世の中には、成均館に所属していなくても、ものすごい秀才というのが野に潜んでいるものなのだ。
だから大科という科挙に共に受かった『花の四人衆』と呼ばれた若者四人組は、成均館の中でもやはり大層優秀であったし、そして運もあったのだろう。輝かんばかりの若さを誇る年齢の時に大科が行われたからだ。話題性も将来性も抜群。勿論大科に受かるぐらいだから頭脳明晰。『花の』とつくぐらいだから見目もよい。当時の成均館生たちの自慢でもあった。
「あの」イ・ソンジュンと机並べて講義を受けていたんだ、「あの」ムン・ジェシンをコロと気安く呼んでたのが懐かしいよ、「あの」ク・ヨンハは相変わらず妓楼で華やかな噂をまき散らしてるな、「あの」キム・ユンシクがまあ立派になってちびっこだったのに、といかにも親し気に言うものもいるが、そういうものほどたいして彼らの友人でも何でもないのだ。彼らは王宮の中でも成均館時代の知り合いはいて、話をしたり挨拶をしたりしているが、やはりいつも四人のうちの誰かと一緒にいて、彼らだけで完結している面がある。誰も間に入れない、そんな仲間意識が見え隠れするように。
彼らは、大科も優秀な席次で受かっているから、出世も早かった。とは言っても家の大きさはこの国では権力と直結していて、大家の子息であるソンジュンとジェシンは、大科での成績が甲科という上位三人の中に入っていたこともあり、特に昇進が早かった。残りの二人、ユンシクとヨンハも順調にその立場を固めている。王宮でもめっきり存在感を示した彼らは、清への留学も乗り越えて数年、仕事ぶりも王様をごく満足させている。
彼らがそれだけの年数を過ごしたということは、彼らが成均館に在籍していた頃の儒生達もそれぞれ道が分かれてきているということだ。当時、彼らと一緒に大科に合格できなかったが、後に行われたもので改めて合格して官吏になった者もいた。だが、何度かの挑戦のあと、諦めて、小科合格の実績があればなれる小役人になったり、地方役人になったりする者も多い。元から地元に戻ってくるように言われている者もいる。そうやって、両班の子息たちは大人となり、家を継いでいくのだ。
だが、その当時の儒生達のうち、何名かは特別な伝手を今も持っている。何の証明もない、何の印もない、それは若き日の若き情熱が築いた理想の実現のための約束。そして、希望。
お前らさ、絶対に偉くなるよなあ!道端で会っても、声もかけられなくなるぐらいよう。おお!イ・ソンジュン大監!俺のことを覚えてるか?!なんて言ったら、お付きの奴に突き飛ばされそうだよなあ!
そんなことないし、しませんよ。王宮で上に行くなんてそう簡単なことじゃないですよ。多分ずっと一人で外を歩いていますよ。
お付きの奴なんで邪魔だぜ、歩くの遅えんだよ。シクの方がよっぽど早いぜ。
まあコロとカランは偉くなるだろうけど、俺はさ、あんまり偉くなると遊びづらくなるからさあ、ほどほどがいいよな!
言ったなお前ら!じゃあ、俺たちがよ、何か困ったらお前らに頼みに行くぜ、昔なじみで話しぐらい聞けよな。
ええ~、僕お金は出せないよ。
お前に金の話はしないよ、テムル!
俺だって金は出さないよ~~。
金の話じゃないってよ、俺は故郷に帰るからさ、そこで俺の手に負えないことがあったらさ、って話だよっ!
仕事のことならそりゃ、ね、コロ先輩。
ああ、そんなことを断りゃあしねえよ、大事なことだろうからよ、多分。
まじめなのかそうでないのか。儒生達は将来に夢を持っていないのだ。自分たちの親たちを見て、政に関わる者たちの生臭さを知っているから。自分たちもいずれ、見て見ぬふりをするのか立ち向かうのか、それとも自分たちが巻き込まれていくのか、選択しなければならない立場になることを自覚していたのだ。
だからイ・ソンジュンは、久しぶりに届いた友人の手紙をおろそかにはしなかった。