㊟フォロワー様500名記念リクエスト。
成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
とりあえず、キム・ユンシクとキム・ギドの関係は分かったし納得もしたのだが、次の日から皆、ギドの積極的な態度に困惑することになった。
「ユンシク、おはよう!」
ギドはユニより少し年上だ。ざっくばらんな態度にはほかに理由は要らない。年齢の高低は儒学を知るものにとっては最初に叩き込まれる秩序の一つだ。かといって年齢の低いものを粗雑に扱っていいものでもなく、そこに社会的地位、性別なども入っては来るのだが、儒生という皆平等な立場の成均館の中で、最も重要な秩序が年齢差であることに違いはない。例えユニの方が先に成均館にいるという事実があったにせよだ。
「おはようございます。」
ユニは一晩で、キム・ユンシクを演じ切ることに気持ちを吹っ切ったらしい。それがユニの正体を知るギド相手であっても。他の儒生に対するのと同じように、丁寧に、けれど明るく挨拶を返したユニに、ギドは明るく笑い声をあげた。
「講義は何?あ、俺と一緒なんだね。隣に並んでもいいだろうか?」
「席は特にお決めにならない博士ですから、自由に座れますよ。」
「じゃあ、隣に。ああ、イ・ソンジュン殿が隣だと決まっているんだっけ。それなら反対側の隣に座ろう。」
「ギド殿。俺に敬称は必要ありません。俺の方が一つほど年少に当たりますから。」
ソンジュンが昨日と同じように、ぐいっとユニの前に進み出て言った。するとギドはまた明るく笑う。
「そうでしたか!ならもっと砕けたお付き合いを頼もう、ソンジュン君。いや、カランか。」
皆にすっかり定着してしまったあだ名を呼ぶギドに、頷くしかないソンジュン。全く害のない会話に突っ込みどころなどどこにもないからだ。
月替わりで替わる講義もあり、成均館に入ってきてすぐのギドと同じ講義をとることにもなる。ユニもソンジュンもまだ一年と少ししかいないのだから、それほどギドと変わりはしないのだ。
「やはり田舎の書院とは進み方が違うね、追いつける気がしないけれど、君はどのように学んでいるんだ?」
そう言って尊経閣に共に向かうギド。一緒に副読本を選び、ユニが講義中に細かく筆記した博士の教えや、復習しながら重要だと思うところを付箋に細かく記して貼っていくやり方などに驚嘆し、ほめそやす。そこに何の含みもなくあっさりと自室に戻っていくのを、ソンジュンもジェシンも止められないでいた。
「何かあれからしつこく言われたりしてないのか?」
そうジェシンがきくと、ユニはきょとんとした顔で答える。
「何が?」
盛大に舌打ちをしたジェシンに、ユニは驚いてぴょこんと飛び上がった。舌打ちされた理由すら分かっていなさそうな困惑の表情に、ジェシンはもう一度舌打ちしそうになる。
なんという警戒心のなさ!
彼女が、ギドと話をした内容を編集して自分たちに伝えたことなど分かっているのだ。ギドという青年は、この男装の娘の正体を知っている。そのことを言われたに違いないのだ。脅されたのか、と様子を見て用心しているのはこっちだっていうのに、といら立ちもする。心配させている本人が、のんきにしているのだから。
ギドがユニに対する態度、向ける視線が、ジェシン達に対して同じなわけがなかった。いや、対外的には同じだ。明るい性質らしいギドは、儒生達と打ち解けるのも早かったし、地方の田舎の出であることを隠しもせず、田舎暮らしの笑い話をネタにして、和気あいあいと過ごしていた。その態度はジェシンやヨンハに対してだって一緒だった。自身の出身地の名産である果実を、ヨンハの実家の商団が多く扱ってくれている、などと、ヨンハと仕事の話をしていることもあるぐらいだ。だが。
時折、ユニの傍に立ち、それを見守るジェシンやヨンハに向ける目は意味ありげだった。
知っているんでしょう。あなた方は知っていますね。そして黙っている、周りに、ユニ殿本人に。俺はユニ殿にすでに伝えている、ユニ殿が女人であることを知っていると。あなた方はどうするのですか。
そんな言葉がしっかりと載った、意味ありげな視線を。