こっちを向いて その20 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「へえ、お前の姉上は家におられるのかあ。」

 

 「うん。僕のせいなんだけどね・・・。」

 

 「気にすんな!身内の苦労は共に背負うものだ!姉上もそう思っておられるだろう!」

 

 「そうだよ。悪いと思うならテムルが頑張って出世してご恩返ししろ。」

 

 「うん・・・そうするつもり。」

 

 ありがと、と言った相手はドヒャンと愉快なその仲間たちだ。老論の子弟が住まう西斎の者たちだが、ほぼ主と化しているドヒャンはこだわりのない明るい性格で、自分の同室の者たちと同じ時期に成均館に入ったユニをかわいがっている。親子か、と陰口をたたかれるぐらい年は離れていて、実際彼の息子とユニの方が年齢差が近いのは笑い話だ。

 

 愉快な仲間のひとり、ウタクの妹の婚儀が整ったという話の中で出たお互いの兄弟姉妹の話。キム・ユンシクに育ての姉がいることは皆知っていて、その姉について話が振られたためにそのようなことになったのだ。

 

 「だが、お前の姉上ならお美しいだろう。お前が出世したら縁談があるのではないか?」

 

 「でも僕がいくら頑張ったって明日出世するわけないよ。何年もたったら、姉上だって年を取るんだよ・・・。」

 

 「まあそうか。でも後妻という話も・・・。」

 

 「それは・・・。」

 

 「お嫌か?」

 

 えっと、と口ごもってからユニは答えた。

 

 「姉上は・・・僕がふがいないせいで家が貧しいでしょ、適齢期の時ですら、後妻と花妻の話しか来なかったの・・・さすがに母上がお断りになって、その時に贅沢なことを言うなと結構罵られたりしたから、縁談自体を嫌がってるっていうか・・・。」

 

 皆がじっとりとドヒャンを見た。ドヒャンは若い娘を花妻として囲っている。既婚の両班にはよくある話で、珍しいことではないが、話の成り行き上、金と身分のある者が無理やりという感はどうしてもわきあがってくるものだ。

 

 「あ!ドヒャン兄上はさ、すごくあのお嬢さんのことをかわいがっておられたでしょ!気を使わないで!」

 

 ドヒャンの花妻は、打杖大会の時に見学にやってきたことがある。皆でからかっていたのをユニも見ていた。正直いい気分ではなかったが、ドヒャンは結構優しい旦那様のようで、少女のような花妻が寄り添って笑う姿は幸せそうだった。かといってユニは花妻になる気は全くないが。それなら男の形をして、ずっと筆写の仕事をして生きて行こうと思っている。

 

 女人の幸せは、よい旦那様を持つことだとこの国の娘たちは教わって育つ。正妻であろうと後妻であろうと、花妻であろうとだ。男に庇護されている状態が女の幸せなのだと言い聞かされて嫁ぐのだ。出もユニには今より幸せな暮らしなど考えられなかった。一目憚らず好きな学問に没頭でき、それこそ男の人たちと対等に話し合うことができる。自分の手で金を稼ぎ、食うものに困らない。家族も健康を保ち、将来に希望が見えた。そしてユニには。

 

 ユニには思い出ができた。沢山。好きなことに打ち込んだ思い出。友と呼べる人たちと過ごした時間。その中でも。

 

 『お前に良く似合う』

 

 好きになった人に言ってもらえた言葉。それだけで充分だ。サヨンがたとえユンシクとしてそこにいるユニの顔に、実家にいるはずのキム・ユンシクの姉の顔を重ねただけだったとしても、彼が見ていたのはユニの顔だ。好きな人に褒められた思い出と、その証拠の品の深紅のテンギ。それだけでユニは一生を夢の中で過ごせる気がした。

 

 そう思うことにしていた。

 

 「何の話だ?」

 

 ぬ、と影がユニを覆った。はいごからユニの華奢な肩に腕が載る。ジェシンが置いた腕だ。

 

 「ん?お前も講義が終わったのか、コロ。テムルは俺たちがお守りしておいてやったぜ。」

 

 「お守りって、僕子供じゃないよう!」

 

 「あははあはは、子供みたいなもんだ俺からすりゃ!」

 

 「ちびだからな。」

 

 「ちびじゃないよう!ひどいサヨン!」

 

 「本当のことだ。で、何楽しそうにしてたんだ?」

 

 再度聞くジェシンに、ウタクがざっと説明すると、ふうん、と関心薄そうに聞いていたジェシンが、テムルの姉上、という言葉に眉をひそめた。

 

 

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