こっちを向いて その13 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「言った、言わねえわけねえだろうが!」

 

 逆に怒鳴り返してきたジェシンは、ふと周囲を見回して、今度は声を潜めた。ヨンハの部屋だからほかに誰もいやしない。だが、夜だ、声は響くのだ。

 

 「・・・地方なんか、金を民からむしり取ることしか考えてねえ両班しかいねえ。あいつなんか・・・使い捨てられて疲れ果ててしまうし・・・。」

 

 「出世にも響くねえ。」

 

 「中央にいてこその昇進だ。誰の目に留まるかが一番大事だからな。だが、あいつは出世は年を取ってからでいい、なんて言いやがる、最初の何年かは目立ちたくないってよ。」

 

 目立ちたくないわけは、弟と入れ替わるからだと分かっている。成均館で学んでいる身、とはいえ、月一の王様の前での口頭試問など、王宮に出入りすることも多い。花の四人衆として、目立ちたくなくても目立ってしまっているユニ。家を再興するために、まずは仕官、それから先は考えていないのだろう。周囲に官吏のいない家だ。官吏の世界もどろどろとした派閥と人間関係であり、地方は出世街道から飛ばされた官吏が行くところであるということを、ユニは実感として知らないのだろう。

 

 「・・・分かったわかった。いうよ、忠告する。俺だってテムルと離れるのなんか嫌だもんね~。」

 

 あんな抱き着き甲斐のあるかわいい子をさ、と言ったとたん、もう一度殴られた。

 

 

 

 「テムル~~、コロが怒ってたぜ~。」

 

 肩に手を回すと、びくりとするのが少し哀れだ。ヨンハはユニが女人であることを知っていると告げているから、余計に本音がばれていると理解しているからだろう。

 

 「・・・訳はさ、聞かないぜ。大体のことは察してるし。お前の思いつく限りの手立てだろうってのも分かる。それぐらいしかできないもんな。」

 

 それなりに知り人の増えた都、王宮、両班の者たちのいるところで姉弟が入れ替わる、そこに違和感を覚えないわけがない。ユニは必死で弟を演じるために、逆に自分の性格の素を出していた。隠す余裕などなかったのだ。どんなに似ている姉弟でも、体格の違いは成長という理由でごまかせたとしても、別人である違和感とは、その人の内面の違いから分かってしまうものだ。

 

 「・・・コロが怒るって分かっていて言ったか?」

 

 ヨンハはわざと聞いた。そして黙っているユニに今度は煽るようにつづけた。

 

 「いい手だよ・・・俺は思いつきもしなかったぜ。お前と離れることの衝撃で、あいつはお前のことを忘れられなくなる。胸に楔を打ち込んだな。」

 

 「そんなこと考えてない!」

 

 ヨンハだって分かっている。ユニは真剣に成均館を出た後のことを考えてひねり出した考えだってことを。ただそこに、ユニの幸せも将来もないだけの話だ。男に身をやつして成均館に来ると決めた日から、ユニは自分のこれからは考えなかったのだろう。目的は弟の仕官によるキム家の再興。再興後に、ユニの功績は何一つ残らないというのに、自分が幸せに生きる道すら、この娘は考えていないことに、ヨンハは実は一晩腹を立てていたのだ。

 

 俺にとっても可愛い後輩、可愛い友人、大事な仲間だ。そんなテムルがみすみす不幸になるようなことをさせるか。

 

 そう決めたヨンハ。ジェシンが怒るのも無理はないので、今回はヨンハは徹底的にジェシンの味方だ。

 

 「ヨリム先輩は意地悪だ・・・僕がそれ以上にできることがないなんて、先輩だって分かるだろうに。それに・・・。」

 

 「それに、の続きを言ってやろうか。自分の存在が邪魔になってはいけないから、サヨンやカランやヨリム先輩から離れなきゃいけない、って思ったんです、だろ?」

 

 目を見張るユニと対峙する。大きな黒い瞳には、驚きと少しの恐怖。怖いだろう、ずっと怖いんだもんな、でもな、テムル、ここまで来たら進むしかないんだよ、やり始めたことが本当にたった一人きりだったなら一人で始末をつければいい、でもテムル、お前はここで俺たちと出会い、お前の本意じゃないにしても、俺たちを巻き込んだんだ、いや、俺たちは自らお前に巻き込まれたようなもんだ、だからテムル、俺たちから離れられると思うなよ、俺たちはお前と一蓮托生だ、それが『花の四人衆』だ。

 

 一転してうつむくユニに、ヨンハは胸のうちで語りかけていた。

 

 

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