こっちを向いて その6 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「ありがと、サヨン!」

 

 ユニが持つ本を数冊奪うように持ってやったジェシンに、笑顔付きの礼の言葉がかかった。おう、といつも通りの不愛想な頷きに、ヨリム先輩の嘘つき、とユニは胸の中で文句を言う。

 

 コロはさ、お前に優しくするのが当たり前みたいに思ってるからさ、逆にさ、お前が優しくされることを特別に思ってることを理解させるんだ!

 

 そう勝手に助言してきたヨンハは、極上の笑顔でな、と自ら例を示すつもりなのだろうか、小首をかしげてにっこり笑って見せた。

 

 「胡散臭い・・・。」

 

 「ひどいな~~テムル!」

 

 怒りもせずに大笑いしたヨンハ。ユニはやるつもりはなかったのだが、礼の言葉は自然に出るものだ。ユニのためにユニの荷物を持ってくれたのだから素直に礼を言うのはあたりまえで、遠慮しつつもやっぱり助かるし、親切にされることはうれしいことだから笑顔にもなる。ヨリム先輩にわざわざ言われなくったって、いつもやってるもん!とぶつぶつ胸のうちでつぶやきながら、ユニは前を向いた。

 

 男ってのはな~可愛い女の笑顔に弱いもんなんだ・・・俺なんか・・・

 

 ヨンハの自慢なのかホラなのか、長話が始まりそうだったので、ユニはさっさとその時逃げた。だが、そんなヨンハの根拠のない言葉でも、ジェシンに対する気持ちに自覚はあるユニにとっては刺さっていたらしい。全然効果ないじゃない、サヨンいつもとおんなじ顔、とユニは文句たらたらだ。

 

 実際はどうか。

 

 ジェシンは少なくとも動揺はしていた。というか、狙った構図というか。ジェシンが見たい光景というか。

 

 美しい、と思うのだ。サヨン、と呼びかけながら明るい笑顔が見上げてくる。身長差のせいで、上目遣いになり、大きな瞳がうっすらと三日月形に細まる。日の光に頬が白く光り、まるで発光しているように輝くその顔は、何度見ても見飽きない美しい光景だった。

 

 いくつか詩も書いた。花にたとえたり、陽の光の申し子として物語のように書いたり、月の光の精として描いたり、いくつもの光景の中にユニの笑顔を置けた。どれも、想像するだに美しく、書いている本人のジェシンの胸がどれほど疼いたことか。

 

 今日も美しい。

 

 そう揺れ動いたジェシンの心の動きは、ユニに分かる範囲での表情には現れなかった。だからユニにはちっともわからない、ジェシンがユニのことをどう思っているのか。後輩として構い、心配をかけて世話もかけてるんだろうな、優しいな、そう思うしかないのだ。

 

 「効果がない?そうかな~~。」

 

 ヨンハに想った通りに報告すると、不思議そうに首をひねられた。捻りたいのはユニの方だ。

 

 「大体、ヨリム先輩はもちろんだろうけど、サヨンだってソンジュンだって、可愛いご令嬢とかの笑顔や、色っぽい妓生たちの笑顔をたくさん見てきてるでしょ。こんな化粧もしてない、男の格好の娘の笑顔なんか、そこらの子供といっしょにしか見えないよ、きっと。」

 

 そういったユニを見て、ヨンハあっけにとられ、そして笑った。

 

 「何言ってんだテムル!コロに笑いかける令嬢なんかいるわけないだろ。あいつは両班の親の間では乱暴者の放蕩息子で通ってるんだ。まず娘に合わせないし、万が一同じ派閥の何かで会う可能性があれば、近づくな殴られるぞぐらいは脅されて怖がられてるんだぞ!」

 

 「え~、サヨンは優しいよ。ヨリム先輩は余計なこと言うからサヨンに怒られるんだよ~。」

 

 「俺への拳は愛情の裏返しだっ!俺のことはともかくだな、コロは誘っても妓楼にまずいかないし・・・。」

 

 「打杖のあとの宴の時、妓生たちにすごく人気あったよ、サヨン。」

 

 「あいつらはさ・・・怖いもの知らずなんだよ・・・自分の旦那を見つけるには手段は選ばない・・・だからコロが拒否してもしても酒を注ぎに行ってたろ・・・。」

 

 俺はあの日、モテなかった・・・と落ち込むヨンハは放っといて、ユニは宣言した。

 

 「僕はね、ここでサヨンの傍に居られたらそれでいいの。変に思われて距離を置かれる方が嫌だから、余計なことはしないし、ヨリム先輩もしないで!」

 

 ふんふんと鼻息荒く去っていくユニ。それをヨンハはにやにやと見送った。

 

 

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