楽園 その41 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 高らかに笑うジェシン。大きく口を開け、空に向かって。快活な青年そのものの姿で。だが、その姿は、笑えば笑うほど気品に溢れ、王者の波動が空気を震わせていく。

 

 ああ、このお方はやはり民の上に立つお方なのだ。

 

 ジェシンの笑う姿にユニは感動し、そして絶望した。自分との隔たりがさらに広がった気がした。いいえ、最初から別世界のお方だったでしょう、と心は囁く。すらりとした垢ぬけた姿に、男らしいけれども整った容貌とたくましい体、話をすれば理知に満ちた言葉がこぼれ、書を好み、読む姿が様になっている。文字を追う喜びを知っている姿だった。

 

 田舎に生まれ育ち、家の生業故出入りする両班の若者はいれど、ユニは自身が学問を好んでいたせいか、あまり突出した才を宿した人に会うこともなく、何も胸に響かずに過ごしてきた。忙しかったせいもある。弟の世話家事学問、そして医術の習得のための勉強、ユニの時間は少なかった。共に学んだヨンハと馬鹿話をするぐらいだった。それもヨンハが妻を娶るとなくなっていった時間だった。ユニも自身が学びながら患者を持つようになり、さらに忙しくなったし、村の若者たちにとってユニはお嬢様だったから、何をちょっかい出されることもなかった。殿方とは無縁だったのだ。だから、ジェシンを診るようになり、医師と患者の枠を超えて話をするようになって、青年としてのジェシンに接するようになった時、時に騒ぐ胸、例えば往診に行くときにうれしかったり、例えば本がないかねだられていそいそと時間を作って実家に取りに行く自分がいたり、雑談をする時間が短く感じたり、一緒に歩くとジェシンが言った時、心配するふりをして実は飛び上がるほど胸が弾んだりした自分の気持ちが何かなんて。

 

 気づかないふりをしていた。そうでないと、今近づく別れの時に辛い。分れなければいけないのだから。私とは違う世界の人なのだから。たまたまこちらに立ち寄った、ひと時の旅人なのだから。

 

 そう予防をしていたのに、目の当たりにしたジェシンの纏う本物の王者の風格に、やっぱりユニは絶望するしかなかった。

 

 予防なんぞ何の役にも立たないのだ。好意を持った時に、覚悟何て格好のいいこと言ってたって、どこか期待を持って。一筋の希望にすがって。あと少し、もう少し。そして万が一の万が一、ずっと。そう思ってしまうのは罪ではないけれど。

 

 子供たちも何やら威厳のようなものを感じたらしく、ジェシンの高らかな笑い声に口をつぐんで体を固くした。手を握り合った子らもいる。構わずしばらく笑ったジェシンは、ふう、と大きく息を吐きながら笑い修めると、ユニの膝の上に未だ載っていた足をすうっと下ろし、そのまま片膝を立ててそこに顎を乗せた。

 

 「お前たちの言う通りだなあ。俺が居なくったって、この世は回ってる。こんなに長いこと留守にしてたって、俺の代わりはちゃんとはたらいていて、何の支障もない、ってことだなあ。」

 

 うん。そうだ。その通りだ。お前たちはすごいな。この世の理を、大人の俺よりよく知っている。子は宝だな。うんうん。そうだ。仲良しなのに、一緒にいない手はないな。

 

 「お前たち。ユニ先生は今から往診のご用意を始めるんだ。ちょっとその辺りで遊んどけよ。行くころに呼んでやるから。」

 

 そう言って、ジェシンの言動にちょっとばかり固まっていた子供たちを追い払うと、はは、ともう一度吐く息だけで笑い、そしてユニを見た。見つめた。

 

 「・・・子供の戯言ですから・・・叱らないでやって下さってありがとうございます。」

 

 そういうユニに、不思議そうな顔を一瞬してから、ふ、とほほ笑んだジェシン。

 

 「何を怒ることがあるんだ?あの子たちの言うことは、ただの正論だ。見たままを、感じたままを述べている。全く、子供というものはいかに自然に近いかということだな。」

 

 自然に近いということは、天に近いということだ。

 

 そう呟いたジェシンは、それから何も言わず、ユニと共に往診に出かけるといういつもの一日を過ごした。

 

 そして三日後。

 

 

 ジェシン達が村から去ることを、ユニは知らされた。

 

 

 

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