楽園 その34 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ユンシクとヨンハが、ユニをどうにか部屋へと運んだ。ユニちゃんも気を失うとそれなりに重いね、と首をこきりと鳴らしながら帰ってきたヨンハが座っても、座はしんと静まり返ったままだった。

 

 「何々~?先生、どうして皆さん黙り込んでるんですぅ~?」

 

 わざとらしく明るくふるまうヨンハだが、それ以上ふざけられないところを見ると、少々動揺はしているようだった。ソンジュンはキム家の事情が分かっていないので口を出せない様子だったが、だからこそ最初に口を開いたのはソンジュンだった。

 

 「かなり・・・お怒りの様子でしたが、あの娘ごは・・・あの者たちがこの度のことに巻き込もうとしてお怪我をさせた女人・・・兄上を治療してくださった医女とはこちらの娘ごでございましたか。」

 

 そうだ、と頷いたジェシンに、ユニが言った言葉の裏を聞いてもいいかとソンジュンは率直に尋ねた。

 

 ジェシンではなくヨンハが簡単に説明した。ユンシクの体質と、それに苦労し、悲しみ、そしてその命を少しでも長くと努力をしてきたユニの姿を。それでもユンシクの体は、健康になり切れずに爆弾を抱えているのだと。

 

 「いい医者様なんですよう、ユニちゃんは。病もケガも見る。病にならないように村の者たちに声をかけて気にかけてくれる。急病人にはいつだって駆け付けてくれて、寝食を忘れて治療してくれる。このあたりは医者様は少ないんですよ。うちの村と隣のユニちゃんのお師匠様がいる村は幸せなんです。人が生まれるところから、死にゆくところまで全部見届けてくれる、大事な先生なんですよ。そんな腕のいい医者様でも、天命には逆らえないと、年寄りが亡くなるたびに寂しそうにする、優しい子なんです。可愛い弟が長く生きられない体だということがどんなに悔しいか・・・。それでもユンシク君は明るく懸命に今を生きている。だから腹が立つんですよ・・・簡単に・・・簡単に人の命を奪うなんてことを言うやつらのことが・・・。」

 

 「わが家が途絶えることも気にしているのです。ユンシクは子をなす体力もないと本人が申しております。そんな男に嫁などもらえば、その嫁が哀れです。ですからユンシクは妻帯をしないと自ら決めました。ユニは医師として働く故、おそらく誰の妻になることもないだろうと自分でも覚悟して今に至ります。人に教えることを家業としてきたわがキム家。少ない親戚にも儒学に熱心な者はおりません。養子も諦めました。諦めたら・・・気が楽になりましたよ、私が先祖に家を途絶えさせた罪を謝ればよいのです。けれど・・・娘は・・・どこか気にしておるのでしょうなあ・・・。」

 

 言いにくいことを言わせました、と頭を下げたソンジュンに、かわるがわる語り終えたヨンハとユニの父が口を閉じた。再び部屋に静寂が満ちる。庭でかがり火が弾ける音、負傷し、縛られてうめく男たちの声が入り込んでくる。

 

 一番皆が話したいことがそれではないのを、皆知っている。けれど言いだせない。ユニ本人がいないから真意が聞けない。だが、考えてみれば分かるのだ。ユニは感情を昂らせ、胸の奥の想いをぶちまけたのだ。その奥にあった、命へのユニの思想と共に、ジェシンの身を案じ、守ろうとする思いがあふれ出していた。村に一時滞在しただけのよそ者。一時患者としてかかわっただけの男。彼は確かに命を狙われているが、こうやって守ってくれる者も多く周りにいる恵まれた男なのに。

 

 「・・・兄上・・・何か医女殿とお約束でも・・・?」

 

 この場合、沈黙を破るのは、ジェシンに最も立場が近いものでしかなかった。ソンジュンは仕方がなく聞いた。

 

 約束、などという上品な言葉の裏に、何が隠されているかなどさすがにジェシンでもわかる。ジェシンが王宮で女人に与える約束は、つまり自分の相手をさせること一つしかないのだ。

 

 「だ~いじょうぶですって!若様はユニちゃんには手を出してないですよう!」

 

 けれど返事をしたのはなぜかヨンハで、ジェシンは思わず、当たり前だ!とわき腹を小突いて転がしてしまった。

 

 

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