楽園 その21 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 午前中、ユニは医師の仕事をする。

 記憶が飛んでいるので、今毎日の往診が必要な患者の様子は本当はわからないはずだ。だが、一人一人に対してきちんと記録を残していたので、現状と使用している薬剤などははっきりとしており、往診しなくても、患者の家族が薬を取りに来たり、本人を負ぶってでも連れてくれば事足りた。その仕事を午前中に限定させたのはヨンハだ。元からユニの医師として住まいしているのはヨンハの屋敷の隣だったから、必要なものを屋敷に持ち込むだけで済んだ。治療を行う場所も、薬を調剤する場所も、隣とはいえヨンハの屋敷の中に移し、ユニを一人にしないようにして、そして言った。

 

 「昼からはユニちゃんの療養の時間だ!お医者さん禁止!」

 

 荷物を移動させるのを手伝っていた子供たちはぶうぶうと文句を言った。俺が今日手をつなぐ番だったのに、ユニ先生元気だよう、あたちユニ先生の水筒をもってあげるのよ、そんな口々の文句は、わかったわかったまた往診にいくようになったらさ、頼むよ、といなして、ユニの新生活は始まった。

 

 ジェシンは同じ屋根の下にいる者の特権として、一番に足を診てもらう。もう薬湯は必要なかった。痛みもないからだ。自分の診察が終わると、田舎の金持ちの家ゆえ、縁側は広く、ユニはそこで薬を調剤し、小分けしていた。薬を必要とする患者の家族が取りにきて、患者の様子をやり取りする。時に急患というか、新たに病にかかったりけがをしたりする者が運ばれてくることもあった。庭でにぎやかにユニに会いに来る子供たちだって、急に熱出したんだよ先生、と親に背負われてくることもある。幸いに、重い病の者のいない村だった。怪我も、農作業の時に農具の扱いを誤った、とか、川で魚を取ろうとして足を切っただとか、一度蛇に噛まれたと大騒ぎになったが、幸い毒蛇ではなかったようで皆で胸をなでおろしたりとかをジェシンは楽しく眺めていた。医師として働くユニは、楽しそうで、生気に溢れていた。

 

 そして午後。療養だからと言って別に寝るわけではない。だから午後をユニは勉強の時間にすることにした、とジェシンとヨンハに言った。

 

 「では俺も共に。」

 

 ジェシンがそう言ったのは当然の成り行きで。そして二人机を向かい合わせにして本を読む時間が始まった。

 

 最初は、ユニは自分の医師としての住まいから持ってきた医術書を広げた。しかし、ジェシンがユニの父の蔵書から借りていた本を読み始めると、時折おずおずとその本についての解釈を尋ねてきたりする。ジェシンが答えると、嬉しそうに聞き、またしばらくすると尋ねてくる。そして、とうとうユニも儒学書を広げて読むようになってしまった。

 

 「数年前の姉上を見るようです。」

 

 ジェシンが村長の屋敷に滞在し始めて二日後に訪れたユニの弟のユンシクが二人を見て笑った。勿論ユニの様子を心配して身に来ているのだが、記憶はともかく体は大丈夫そうなことに安堵して、今度は本を持ってきてくれるようになったのだ。時に一緒に学びたいと上がり込んでいく。男女の違いはあるが非常に容貌の似通った姉弟で、目の前にその同じ顔が並んでいると、ほほえましいやらおかしいやらでジェシンはすっかり和んでしまう。けれど二人の学識はなかなかのもので、当然儒学をし続けているユンシクはユニよりも本を読みこんでいるのがよくわかる発言をした。それをユニは嬉しそうに聞く。体はよくなったらしいが、虚弱であったことを隠せない細い体のユンシクを、いとおしそうに眺めて。その細やかな愛情に浸されて、そして共に何かをするという状況の居座りそうになる居心地の良さに、ジェシンはうっかり自分の立場を忘れそうになる日々だった。

 

 「いいなあいいなあいいなあ!俺は忙しいのにさあ!」

 

 村長の子息で、村の産物を商売ものにすると言う仕事を一手に請け負っているヨンハは、自分もあちこちに出向き、彼曰く顔を売って販路を広げるべく働いている。けれど屋敷にいることもあり、ジェシンとユニ、時にユンシク参加の勉強会をうらやましがった。もうジェシンに対する遠慮も取れて、ほとんど友人のように接してくるそのあけっぴろげな態度が、ジェシンにとっては気持ちよく、そしてうれしかった。そんなこともジェシンを和ませていたのだが。

 

 周囲ではユニ襲撃の調査は進められていて。

 

 街道沿いの宿、隣村などから続々と知らせは届いていた。田舎なのだ。自分たち独自の守り方がある。

 

 よそ者は目立つのだ。

 

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