楽園 その19 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンもその名を書いたへたくそな字を見たが、記憶にはなかった。首を横に振るジェシンに残念そうな顔を見せたヨンハだったが、男たちに、しばらくは周囲をよく観察してくれと調査の継続を頼んだ。男たちが自分たちの生活に戻るため屋敷を去ると、ジェシンとヨンハはまた二人きりになった。

 

 「でもさ、若様はなんとなく予測はついてるんだよね?」

 

 「お前もだろ?」

 

 う~ん、と軽く首をひねって見せるヨンハだが、その賢さは庵にジェシンを尋ねてきたときにすでに見せていた。本来の素性は隠して村に滞在していたジェシン。当然ヨンハの父親である村長はある程度のことは分かってのことだろうが、ヨンハに関しては調べたのか勘なのか、ジェシンの本当の身分をしっかりと知っていた。

 

 「ユニちゃんにさ、その男たちが何を聞こうとしたのかはわからないけど、ユニちゃんから話を聞かなきゃならない患者何て、若様ぐらいしかいないだろ?村の爺様の死期を聞いたって、誰の得にもなりゃしない。」

 

 「・・・俺は、生まれたときから対抗する者たちを背負っているようなものだ。俺の周りが手薄になる時を見計らっていた者たちが来たのかもしれないとは考えている。」

 

 「それは、もう一人のお世継ぎ候補の差し金ってこと?」

 

 「・・・それはないな。」

 

 ジェシンは弟のソンジュンの顔を思い浮かべた。賢さが全身に漂うように知性をますます発揮してきている第二皇子。ジェシンの兄だった、本当なら世子になったはずの子息を亡くしたソンジュンの母の希望の星。ソンジュンの母は、本来とても優しい嬪で、ジェシンも幼い頃はとてもかわいがってもらっていた。息子を亡くし、嬪はジェシンと会うことが減った。生まれたソンジュンとジェシンが関わることも歓迎しなかった。けれどジェシン自身は憎まれていないとはっきりわかっている。それは、ソンジュンがジェシンをきちんと兄として、世子として裏表なく尊重してくれるからだ。

 

 うわさ話、悪口、讒言など簡単に飛び交う後宮で育ったジェシンとソンジュン。ソンジュンの耳には、ジェシンとジェシンの母、母の実家に関する悪口が山と注ぎ込まれているだろう。それはジェシンも同じことを経験しているからわかる。だが、ジェシンは冷静にそのような言葉はやり過ごさねばならないと思ってきた。父王もそうしていたからだ。そしてその考え方は、ソンジュンも持っている。絶対に。王族としての世間知は幼い時から鍛えられ、まともに取り合う話と讒言とを聞き分ける能力ばかり育っていく。そしてソンジュンは賢い。ジェシンよりもはるかに。そして世間知が育ったにも関わらず、ソンジュンは非常に潔癖で正しいことと誤りに線を引きたがる性質だった。彼にとって、王である父は偉大であり、世子であるジェシンは立派な兄であり、尊重すべき年長者である。その儒学の教えに従順で、その通りに生きている。そのソンジュンが。

 

 ジェシンに害を与えんとする行動をとるわけがない。

 

 けれどソンジュンの周囲、特に母の実家に当たる家の者は違うだろう。世子であり、時期王であることは、生みの母の位が上がること、そしてその実家が出世し、潤うことに直結する。王の外戚であることは力なのだ。そして、実家としての家の力は、元はソンジュンの母の方が大きい。権力を持つことを知っている家だ。知っている栄光と力を手に入れたい。その野望は隠されることなくジェシンに降り注いでいたのだ。

 

 「ふうん・・・じゃ、お世継ぎ候補の周りが先走ったってところ?」

 

 「そういうことだろうな。」

 

 「どうするの?」

 

 ズバリ聞いたヨンハに、ジェシンは苦笑した。

 

 「そいつらに俺の身をやるのは勘弁だな。自分が大層なものだとは思わないが、そいつらにはもったいないぐらいの体だとは思っているが・・・ただ。」

 

 ジェシンはここ数年胸に潜めていた想いをぽろりとこぼした。

 

 「弟にこの座を明け渡した方が良いのではないか、とは思っている。」

 

 

 

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