楽園 その15 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ユニ医師は床に座っていた。傍には三歳ほどの男児が座り込んで木を削ってできている様々な形のものを積んだり壊したりして遊んでいる。それを眺めながら、ふわりと彼女はほほ笑んでいた。

 

 

 今朝目覚めた彼女は、ヨンハを見、ヨンハの妻を見、そしてそのそばに居るこの男児を見て首をかしげたそうだ。あれ、その子はだあれ?ヨンシンちゃんはまだ寝てるの?詳しく聞いていくと、ユニにとってヨンハとその妻にはまだ赤子が生まれたばかりの頃。目の前のその子が、ユニがその名を呼んだヨンシンなのに。つまり、三年ばかり記憶が飛んでいるのだ。

 

 「賢い子だからね・・・最初の混乱から冷静さを取り戻そうと自分を落ち着かせるのも早かったし、俺の説明もしっかり聞いて、自分の陥った状態を納得させた。まあ・・・後からわらわらとやってきた子供たちが皆記憶より大きくなってるんだ、納得せざるを得なかったというか・・・。今日、というか毎日様子を見に行っている年寄りのところとか寝込んでいる患者の家にはうちの者を走らせて往診を休ませたんだが、こちらには多少疑いが残ってたんでね、俺が直にお伺いすることにしたわけ。」

 

 どうしてもユニ医師の見舞いに行くというジェシンを馬に乗せ、自身も馬で来ていたヨンハは並んで歩きながらそう語った。前後には武官が一人ずつ付き、庵には用心のため内官と武官が留守番をする。留守中に侵入されて待ち伏せされても事だからだ。

 

 ユニ医師に会いに行くと言い張るジェシンに少々呆れた顔をしたヨンハだったが、記憶が戻るきっかけになるかも、とすぐに頷いた。俺は若様を担げませんよう、とからかうヨンハに見せつけるように、武官二人がジェシンを馬に押し上げたりと世話をする。

 

 「困ったのはさ、昨日の男二人に、ユニちゃんが何を言われたのかが全くわからないわけだよ。怖いことを言われたりされそうになったから逃げたのには違いないさ。でも内容がね。だからこちらの方々を疑うことにもなっちまったし。」

 

 ご実家に戻すわけにもいかないし、とため息をつくヨンハに、ジェシンはわけを聞いた。

 

 「うちの方が人が多いんだ・・・。世話をできる女も、それから男が仕事で大勢出入りする。勿論夜だって下人が何人もいるし、昨夜は力自慢の男たちも泊ってくれた。ユニちゃんのご実家のキム家は・・・やっぱり両班の殿様・・・というか学問の先生の家だから、村の者には敷居が高いんだよ。守りづらい。それにユニちゃんは俺の妹みたいなもんだから。」

 

 「親戚・・・ではないのか?」

 

 兄様と呼んでいた、と小声でつぶやくジェシンを、ヨンハは面白そうに眺めた。

 

 「うちは両班様に親戚はいないよ!俺の母親が中人で、その名に親父が縁組して商売をできるようにはしたけどね!ユニちゃんはねえ、俺と兄弟弟子、というのかな。ユニちゃんの親父様に俺が学問を習いに通っていた時、ずっと一緒に机を並べてたから。医者様になるのには一杯知識が必要だって、医者様の手伝いもしてるのに学問も怠けずにやってたよ・・・本当にユニちゃんはえらい。」

 

 まあ、昔はユニちゃんがお嫁さんになればいいのに、とおもってたけどさあ、とヨンハは続けて大きな声で呟き、ジェシンは目を見開いた。その顔をちらりと見て、ヨンハは少し笑った。

 

 「ユニちゃん、可愛いもん。似たような年の村の男はみんなユニちゃんのこと好きだったよ。でも学者先生のお嬢様だし、本人は医者様になるんだって頑張ってて・・・そこらの男よりずんと賢くってさ、手が届かない女の子だってみんな分かってた。俺も、俺の気持ちを見透かしたみたいに親父がさ・・・まだ毛も生えそろわないうちに婚約者だって妻を連れてきて・・・俺の子ヨンシンは、ユニちゃんが取り上げてくれたんだよ。妻もユニちゃんを本当に頼りにして、本当の妹みたいに仲良くしてる。」

 

 村の宝物なんだ、ユニちゃんは、とヨンハはジェシンに言った。

 

 「だから・・・ユニちゃんに害がないようにしてくれ・・・もしあんたたちが・・・あんたのことが原因ならば。」

 

 

 その言葉が頭に回ったまま、ジェシンは村長の屋敷に入り、そしてユニ医師を見つけたのだ。いつもはきっちりときつく編み込んでいる髪をゆったりと編んで肩口に垂らし、あどけない顔で男児に構う、そんな姿を見てしまった。

 

 

 

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