楽園 その12 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンが骨折をしてから10日経ったころ。すっかり痛みを感じなくなり、それでも添え木は外してもらえずにユニ医師に文句を言ったところ、だって、と頬を彼女は膨らませた。

 

 「骨はまだくっついていません。けれど周囲の炎症が治ったから痛くないだけです。それなのに添え木をとっちゃったら・・・若様は何をなさるおつもりです?」

 

 ジェシンはう、と声を詰まらせた。いや厠に一人で行けるようになるし、少し歩いて体力を、としどろもどろに言い訳すると、ふん、とユニ医師は顎を挙げて唇を尖らせた。

 

 「そうおっしゃる方はね、厠に行くついでに庭に降りて、おや普通に動けるじゃないかと勘違いして、いきなり足を使ってしまうんです。例えば・・・あの子たちと一緒にぼうっきれを振り回そうとしたりとか。」

 

 ぎくりとしたジェシン。正直元気に声をあげて武官の鍛錬に混じる子供たちがうらやましかったのだ。体の、足の痛みが取れてから体がうずうずしている。ジェシンは元から体を動かし鍛えることが好きだった。学問も面白いが、剣を振り、矢を放ち、馬を走らせることが本当に楽しかったのだ。

 

 だから狩りができたたったの一日半は本当に楽しかった。思い切り馬を走らせた往路。山を登る爽快感。獲物を見つけて身をひそめる緊張と矢を狙い定め放つ集中。すべてに今までの自分の体と頭脳の成長が試されているようで、そしてそれが証明されて、本当に気持ちが充実する実感を得たのだ。

 

 「せっかく正しい位置で骨が固まろうとしているときに動くと、ゆがんでしまいます。一度ついてしまったら正すことができないのですよ・・・寒くなるとその部分が痛みを訴えたり、一生足を引きずることになります、体がいがむことになりますから・・・。我慢、我慢です。私が言いというまで添え木は続けます。」

 

 隣で神妙な顔をして頷く内官。足を引きずる、とユニ医師がいったときには、びくりと肩を揺らして怯えた顔をした。

 

 幼いころからジェシンについているこの内官は、ジェシンのことが自慢なのだ。世子でなくとも、ジェシンの育ちは健やかだった。儒学を学べば教える儒学者から称賛が贈られる。体を鍛えさせれば、熱心に教える武官から学び、頑健な体を自ら育ててきた。何よりも、雄々しい容姿が皆から王者にふさわしいとほめたたえられていた。そして密かに噂になっているのが漢詩を作るその能力の卓越したところだ。教養として両班以上の男子は必ず手ほどきを受ける漢詩。だが、漢字という他国の言葉を美しく操るのにはやはり言葉の力がいる。ジェシンは言葉に興味があり、それを操ることに興味があり、読みこなし、自ら使うことへの欲があり、それが詩を作る力を誰よりも高めた。それ以上に、ジェシンには誰にも見せない繊細な心というものがある。それは傍近く仕えていないとわからないこと。どちらかといえば仏頂面でめったに表情を動かさないジェシンの豊かな感情は、内官はさすがに幼いころから見てきたからこそ、ちょっとの表情の動きで分かるのだ。本当は優しく、愛情深く、そして花を見て喜び、晴れた空を見て心を解放し、嵐に意味を探す、そんな若者なのだ。

 

 だから、ジェシンの何か一つでも傷がつくのが怖い。内官は決めた。私が見張る。ご無理を、ご無茶をなさらないように。足を引きずるなんて私がさせないのだ、と。その決心を浮かべた内官の顔を見て、ジェシンはうんざりした。

 

 「・・・ではいつとれる?」

 

 「大体月が替わるまではかかるものですよ、骨折は。若様はお健やかですからもう少し早いかもしれません。だからこそ、治りかけのいまこそ用心していただく必要があります。」

 

 ふん、と今度はジェシンが顎をあげた。

 

 「ならば先生が良しとおっしゃるまでこちらで療養させていただかねばならぬ。何しろ先生が俺の主治医であられるからな。」

 

 今度は内官が慌てている。途中で王宮に連れて帰ろうと思っていたな、とジェシンは鼻で笑った。

 

 「その日まで先生、往診をお願いしますよ、何しろ俺は動いてはならぬのでしょう?」

 

 「ええ、その通りです。ちゃんと毎日診察させていただきますわ。」

 

 すましてそう答えるユニ医師に、ははは、と笑ったジェシン。毎日彼女と話す時間があると喜んだこの日。

 

 数日後、ユニ医師が往診に訪れず、代わりに午後になってやってきた、『ヨンハ兄様』に驚くべきことを告げられた。

 

 

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