虎みたいな人 その31 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 日は過ぎ、大科が近づく。鬼気迫る受験者たちの勉学への没頭に、成均館にも緊張が張り詰める。ユニもその真っただ中にいて、きゃしゃな体をさらに細らせながら筆を執る。

 

 極寒の講堂で、その寒さと周囲の緊張感を利用して夜を徹し机に向かう儒生たち。一生の一大事であるこの試験は、高官への道が約束される出世の関門だ。地位と名誉。両班にとって権力への一歩となるこの試験は、ユニにとっては家の再興の礎に他ならない。何が何でも通る必要があった。それこそ、周りが何も見えなくなるぐらいの状態。

 

 ユニには周りを気遣う余裕などなかった。だが、周りは違った。まずジェシンがユニを夜中に部屋に無理やり帰した。勿論夜の成均館の敷地を一人で歩かせることはない。寒さに弱いヨンハが音を上げて自分の部屋に戻るときに、ユニを連れて行かせたのだ。何の理由も言わず。ユニの荷物を勝手に片付けて押し付けて追い出した。まだできるよ、やらなきゃ。けれどそんな恨み言をソンジュンがなだめる。コロ先輩はね、心配してくれてるんだ、体を壊したら大科を受けるどころじゃなくなるだろう、君は自分がどんなにつかれた顔をしているか鏡で見るべきだ、と。説明してくれたら分かるのに、とやつれた頬を膨らませるユニに、ソンジュンは苦笑する。言っても君は聞かないだろ、実力行使が一番だって思ったんだよコロ先輩は、君のこと、よくわかってるね。苦笑の中に本当の苦みが混じっていることに、ユニは気づかない。

 

 「野生の勘、とでもいうのかねえ。」

 

 「・・・ユンシクのやつれようは、誰が見たってわかりますよ。」

 

 俺だって、と言いかけるソンジュンに、ヨンハは苦笑して見せる。

 

 「それは俺だって分かってたさ。けど、がんばってるのを無理やり帰す、なんて荒業は思いつかないよな。できないよ、同じ大科を受ける身ではさ。」

 

 受かりたい気持ちは皆一緒だ。だからこそ寸暇を惜しんで机に向かう。それを止める権利は誰にもなくて、体を壊したってそれは自分自身の責任だ。大体、成均館でも時に出ているのだ、大科を受けるために無理をして死にまで至った儒生が。体を壊し、絶望した儒生が。だがそれは自分自身の体の管理の問題で、他の者の誰にも責任はない。放っとけ、と言われれば放っとくものだ。ユニだって言葉で部屋へ帰ることを勧められたら、まだできる、勉強しなきゃと言って残っただろう。よく考えたら分かる筋書きだ。だが、皆机に向かって一心不乱だ。その時にそんな判断ができるものなどほぼいない。顔を見て、ひどく疲れた様子だから帰れ、と口に出してしまうのがせいぜいだろう。だが、口に出す前に行動に移すのがジェシンだった。くるくると体に被っていた布団をたたみ、筆記具、紙類、本をぱんぱんと重ねると、首根っこをひっつかむようにしてユニを扉から押し出し、物を持たせてぴしゃりと扉を閉めた。皆勉強しているから抗議することさえできなかった、追い返された初日。それからソンジュンになだめられ、ヨンハに苦笑されながら部屋に連れ帰られる毎日が続いている。そしてユニを追い出す理由を、ジェシンは未だその口から言わない。

 

 けれどユニ以外は知っている。特に同室のソンジュンは。

 

 講堂に最後まで残って勉強していくのはソンジュンとジェシンだ。夜が白む直前に同時に立ち上がり、中二坊に二人で戻る。束の間の睡眠のために。そっと部屋の扉を開けると、本を片手に握ったまま、布団に丸まるユニがいる。眠っているのを見て、ジェシンの周りの空気がふとほどけるのを、ソンジュンは毎日感じているのだ。

 

 他を寄せ付けないほどの賢さをもつソンジュン。そしてジェシン。その二人をもってしても大科は難関だ。そしてお互いに負けたくないと机にかじりついて知識を頭に叩き込み続ける日々。そのビリビリとした闘争心がほどけるその一瞬。その一瞬を毎日感じるソンジュン。

 

 「・・・そこだけは・・・敵わないんです・・・。」

 

 ソンジュンのつぶやきに、ヨンハは優しく笑い返す。

 

 「誰も敵わないんだよ・・・。あいつはただ心の赴くままに、自分の望むままにしているだけだからさ。」

 

 ただ、番を守るという動物の本能のままに。

 

 

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