虎みたいな人 その21 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ユニは、追いつめられると思い切りよくなる自分の性格をいまいち把握していないところがある。だからこそ成均館にいる事態になってはいるし、今のところ一家が飢え死にすることなくいられはする。だがその思い切りの良さは綱渡りをしている危険と同じだということを忘れてしまう悪癖があった。

 

 ジェシンが赤壁書という世の矛盾を糾弾する義賊であることは、負傷したジェシンに遭遇し、その逃亡と手当の手助けをしたことで知った。怖かったけれど。暗闇から出てきた暗闇と同じ色の衣装をまとった大男に捕まえられた時は。でも、何か感じた。怖くて震えながらも必死ににらみつけたつもりのユニの目の前に現れた顔は、毎日見ている先輩、ジェシンの顔で、一瞬呆けた後、ユニは血の匂いとジェシンの様子のおかしさに彼の負傷を知った。

 

 おかしな人だ。自分からユニを引っ付構えて顔まで見せておいて、部屋に戻れと命令したのだ。夜目にも血の気の引いた真っ白な顔で、血の匂いをぷんぷんとさせて。脅すのだ。帰れ、帰れ、と。だけどユニはもう夢中だった。だって、サヨンが。

 

 ユニにいつも優しいサヨンが怪我をしている。その事実が、帰れと脅すジェシンの命令を無視させた。怪我してるじゃない、辛そうじゃない。僕何かできるでしょ。何ができるかわかんないけど。でもとりあえず隠れた方がいいんだよね!

 

 必死に出てきたばかりの享官庁に戻り、扉が開かないように内側から閂をかけた。奥に入っていき、ずるずると座り込んだジェシンは、棚を手で探っている。聞くと乾燥煙草を探しているのだという。儀式に使うそれは、傷口の血や体液を吸って、なおかつ膿みにくくなるらしい。いつもそうして傷を癒し、あとで使った分を贖って返しておくのだと独り言のように言うジェシンの声を聴きながらユニが代わりに煙草を探した。探り当て、さて手当てを、というと、ジェシンはかたくなに着物の前を寛げようとしない。

 

 ユニは必死だったから、無理やり着物の合わせを開いた。早くしないといけない気がした。それぐらい血の匂いはきつかった。ジェシンがなぜためらったのか、その訳は、その傷のひどさのせいだと後で思った。それぐらい深くえぐれ、明るければ内臓も見えていたかもしれないと、あとでヨンハに聞いて震えたぐらいだったから。

 

 ユニが中二坊で、単衣をしっかり着込み、足袋も脱がずに就寝するのは、自分が女人であり、その体から女人であることが発覚しないようにという用心とともに、幼いころから叩き込まれた、素肌を人に、殿方に見せるものではないという教えが染み込んでいるからだ。それがジェシンにも適用されるとは、自分が女人であることを知らないだろうと高をくくっているユニには思いもよらなかったのだ。男だって教えられて育つのだ。女人をじろじろと見るものじゃない、無礼なふるまいだと。そして、自分の肌や髪も簡単に見せるものではないのだ、と。だから男でも、人と会う時は、両班なら笠をかぶるし、平民や貧しい男でも布を巻き付けたり、せめて網巾を巻いたりしている。普段は笠どころか髪もまともに髷に結わないジェシンだが、やはり常に着物の下にある部分の肌を見せるのは、いくら何でも、という感覚はあるのだ。だが、ユニはそんなことはわからなくて、傷の手当の方に気がいって。

 

 ユニが怪我のひどさに怯えながらも必死に煙草の葉を傷に押し付け続けているとき、ふと触れたジェシンの手。ユニの頬を撫でた手は熱かった。その熱さに異常を感じ、また怯えながら必死に煙草の葉を足すと、いてえよ、と言いながら手はユニの顔に落ちたおくれ毛を優しくつまんでいた。

 

 くるり、くるり、と髪を巻き付けるその指があまりにも優しくて、ユニは泣き出しそうになった。血の匂いは薄まらない。ジェシンの優しい態度が逆に怖かった。なんだかどこかに彼が行ってしまいそうで。

 

 気づかなかった。優しいふりをして、ユニを狙う獣に変身しかけていたなんて。

 

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